□lost in love with you.
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 切なくて、苦しくて。
 もがけばもがく程、もっと深くへ。


 きっと恋はするものでもなく、堕ちるものでもなく、

 溺れて行くものだ。



    





『なぁ、景吾』

 わかってたのに。

『好きや』

 普段から何処を見てるのかわかんねぇし、何を考えてんのかもわかんねぇ。
 こいつにだけは近付いてはいけないと。隙を見せてはいけないと、頭の中で警報が煩い程鳴り響いてたのに。

『愛してる』

 俺は、目の前に広げられた腕に堕ちてしまった。

 こいつが囁く陳腐で安っぽい言葉を信じてる訳じゃない。この男を信じてる訳じゃ決してない。
 けど。

 俺を抱く腕を、振り払えない―――。





 放課後のテニスコート。二百人分の部員の声が絶え間なく響き渡っている。
 そうだ、今は部活の時間。氷帝テニス部として何よりも大切な練習時間。
 の、はずだが。
 …何で俺はこんな間抜けな寝顔を目の前にしてるんだ?

「………おい慈郎」
「グ〜〜〜……」

 起きる気配は全く無く。

「慈郎!!」
「ンゴ〜〜〜〜……」

 ヨダレがまた一筋。

「………………」

 それが、今この瞬間までやっと抑えられていた俺の怒りを招いた。

 ―――ドカッ

「痛ってぇ〜〜!! あっ、跡部、何すんだよ!!」
「アーン? バカが、いっつもいっつも部活中に寝やがって」
「だって眠いんだもん」
「とっととコートに戻れ」
「跡部手繋いで〜」
「何 甘ったれた事ほざいてんだ?」
「そうじゃなきゃ行かないC〜」
「ッ……………」

 口を尖らせて背を向ける慈郎。もう1回蹴りを入れてやろうかとも思ったが。軽く溜め息をついて、慈郎の手を掴みほとんど引きずるようにコートに連れて行く。
 …ったく、慈郎にかかるといつもこうだ。

「なぁなぁ跡部ー」
「うるせぇ何だ」
「忍足は結構弱いよ」
「!!!!」

 突然の、ナイフのような言葉に、足が止まった。

「…何言ってんだ」
「だって跡部、忍足と付き合ってるでしょ?」

 俺を捕える、さっきまでの寝ぼけ眼とは打って変わった鋭い瞳。何処までも、総て見抜いてしまうような。
 ああ、こいつには嘘を吐いても無駄だ―――直感的にそう思った。

「忍足はああ見えて弱いから。跡部の総てを受け入れるなんて、出来ない」
「……慈郎……、」

 それは、忠告か?

 だったら―――……

「……俺には忠告も心配も要らねぇ」
「…………」
「……俺は、」

 俺は、あの男を。

「あいつを、“愛し”はしねぇ」
「……そう」

 慈郎は笑ってそう返すと、それ以上何も言わなかった。






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