□蝶捕り
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     手掴みで、
    捕ってしまおう。

    ひらり、ひらり、
       ムシ
     舞う蝶を。





 僕は君を愛してる。君も僕を愛してる。
 だったら、他にはもう何も要らないよね?
 美しい羽も。輝く鱗紛も。
 ほら、全部僕に寄越してみなよ。

「手塚?」
「何だ」
「手塚の一番大事なものって何?」

 いつもと何も変わらない笑みで問い掛ける僕。その綺麗な瞳には、一体どんな風に映ってるんだろう。

「ねぇ何?」
「……………」

 詰め寄る僕をじっと見つめたまま黙る手塚。ふふ、そんなに見つめられたら堪らないよ。
 そうだね、少しは逃げてくれなきゃ面白くない。
 無駄な事を知りつつも、あっちへこっちへ、ひらひらと舞い踊れ。

「やっぱりテニス?」
「……ああ」

 今の僕に易々とそれを告げる手塚は、別に馬鹿な訳でも無知な訳でもない。所詮僕と君は似てる。いや、正しく言えば「染まった」んだ。
 引き金を引いたのは君。
 平然と本の続きに目を遣る手塚に近寄る。そして、その左肘を利き手で思い切り握った。

「ッ……!!!!!!」
「痛い?」

 肘に走った激痛に、手塚は眉を寄せその端正な顔を歪めた。背中に心地良い寒気が走る。
 さぁ、捕まえろ。
 白く冷たいこの手で。
 毟ってしまえ、そのまばゆい羽を―――。

「おいで手塚」
「………」

 肘を押さえて僕を睨む姿は、何て美しい。
 光を夢見たボロボロの蝶は、そうだ、もう既にこの掌にあったんだ。
 恐る恐る近付いた手塚をそっと抱きしめる。潰すように、壊すように段々と腕に力を込めて行った。

「…不……二……」
「手塚……」

 もがく蝶は、やがて動かなくなれば良い。
 嗚呼、もしこの世界に僕と君以外に存在するものがあるなら、

「…こんな腕、永久に治らなきゃ良いのに」

 どうだい? 掌の中の闇は。

 手ノ中デ潰レタ蝶
 例エソノ身体ガ
 モウ二度ト動カナクナッテモ
 ソレデ良イ
 ソレデ良イ

 そこから何か景色が見えるなんて、
 僕は絶対許さない。





       END

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