剣
□僕等流契約
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この契約に紙とペンなんていらない。
必要なのは、そう、きっと。
恋焦がれるこの気持ち。
その白い肌に這わすは、この濡れた舌。
座ったままの体勢を崩さず首筋をなぞると、その身体はビクビクと波を打つ。
「んッ、…や………」
「気持ちええ?」
柳生の弱い所なんて、とうに知り尽くしちょる。首筋から耳にかけて丹念に舐め上げると、そこで口を離した。
「……ッ?」
物足りなそうな表情。どう見ても誘っとるようにしか見えん。
どうせ本人は無意識なんじゃろうが……本当、タチ悪いのぉ。
「…今日な、クラスの女子が泣いとったんよ」
「?」
「『彼氏にフラれた』言うて」
教室ん中で恥ずかしげもなく泣いとった一人の女子。『「ずっと一緒にいようね」って言ったのに』、そんな事を喚いていたような気がする。
もうちっと人気のない所で友達に相談出来んもんかのう…ぼんやりとそう思いながら、半分呆れてそれを遠目で見ていた。
「皆、言葉に縋り過ぎるんじゃなか?」
「…そうかもしれませんね」
この世に言葉程 不確かなものはない(人の心を除いては)。
吐いた瞬間宙に消え失くなってしまう。いとも容易く偽れる。
そんなものを何故誰もが信じるんじゃろうか。
そんな、実態のない頼りないものを。
柳生の事はしっかりと腕に抱いたまま、顔を上げ溜め息を吐く。腕の中の柳生が静かに尋ねた。
「それにしても、何故 今その話題なのですか?」
「んー? 思い出したから」
わざわざ愛撫の途中に持ち出さなくても…そう思っとるんか?
そんな心配せんでも、ちゃんとすぐ襲っちゃるけぇ。
俺はな、柳生に触れてて思ったんじゃ。
どうせするんなら、そんな意味のない口約束じゃなく、ちゃんとアトを残さんと。