□everblooming
2ページ/3ページ

「ほら此処。結構良い場所なんだ」

 そう言って着いたのは、ドラマに出て来そうなよくある河原。部活中の学生やらカップルやら親子連れやら……人も結構居る。

「よく写真撮りに来るんだよね。手塚こういう所あんまり来ないでしょ」

 そう言いながら温かい芝生に寝っ転がる。ポンポンと隣を叩くと、手塚もわかってくれたらしく、何も言わず僕の隣に寝っ転がった。
 柔らかな陽射しと穏やかな風、辺りに響く子どもの笑い声。
 優しい時間が、僕達の間を緩やかに過ぎて行く。

「気持ち良いね」
「ああ……」

 横を見ると、手塚はいつもの堅い表情を少しだけ和らげてそこに寝ていた。
 これを見れただけでも、来た甲斐はあったかな。

 ねぇ、手塚。
 君が好きだよ。
 その存在の総てが、もうどうしようもない位に好き。
 僕の中で咲いた小さな花は、どんどん育って行くんだ。
 ……でも、叶わないのに想ってるのはつらいから。叶ったのに別れるのもつらいから。
 だから、この胸に咲いた花を、僕は摘み取らなきゃいけない。
 側に咲いていた薄紫の花をゆっくりつまんで引き抜こうとした、その時。

「やめろ」
「え……?」

 手塚………?

「せっかく咲いてるんだ。摘んだら可哀相だろう」

 僕の手を柔らかくとめる手塚。
 そして、優しいけど淋しい表情でその花を見た。

「…『可哀相』と言うより、俺が摘まれて欲しくないだけだがな」
「…………」

 手塚、ねぇ良いの?
 この花は。
 哀しい色で咲き誇るこの花は、間違いじゃなかったの―――……?

「………手塚、」
「?」

 添えられていた手塚の手を、そっと握り返した。
 僕のこの手が、声が、微かに震えてる。
 お願いだ、この花がまだ咲く事を許されるなら。
 ほんの少し、君から雫をもらえるのなら。
 なら、その優しさに縋らせて。

「不二…?」
「…手塚、…………君が」

 そして

「君が好きだ」

 散らすなら、どうか君のその指で―――。





       END


後書き→→


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ