剣
□everblooming
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「ほら此処。結構良い場所なんだ」
そう言って着いたのは、ドラマに出て来そうなよくある河原。部活中の学生やらカップルやら親子連れやら……人も結構居る。
「よく写真撮りに来るんだよね。手塚こういう所あんまり来ないでしょ」
そう言いながら温かい芝生に寝っ転がる。ポンポンと隣を叩くと、手塚もわかってくれたらしく、何も言わず僕の隣に寝っ転がった。
柔らかな陽射しと穏やかな風、辺りに響く子どもの笑い声。
優しい時間が、僕達の間を緩やかに過ぎて行く。
「気持ち良いね」
「ああ……」
横を見ると、手塚はいつもの堅い表情を少しだけ和らげてそこに寝ていた。
これを見れただけでも、来た甲斐はあったかな。
ねぇ、手塚。
君が好きだよ。
その存在の総てが、もうどうしようもない位に好き。
僕の中で咲いた小さな花は、どんどん育って行くんだ。
……でも、叶わないのに想ってるのはつらいから。叶ったのに別れるのもつらいから。
だから、この胸に咲いた花を、僕は摘み取らなきゃいけない。
側に咲いていた薄紫の花をゆっくりつまんで引き抜こうとした、その時。
「やめろ」
「え……?」
手塚………?
「せっかく咲いてるんだ。摘んだら可哀相だろう」
僕の手を柔らかくとめる手塚。
そして、優しいけど淋しい表情でその花を見た。
「…『可哀相』と言うより、俺が摘まれて欲しくないだけだがな」
「…………」
手塚、ねぇ良いの?
この花は。
哀しい色で咲き誇るこの花は、間違いじゃなかったの―――……?
「………手塚、」
「?」
添えられていた手塚の手を、そっと握り返した。
僕のこの手が、声が、微かに震えてる。
お願いだ、この花がまだ咲く事を許されるなら。
ほんの少し、君から雫をもらえるのなら。
なら、その優しさに縋らせて。
「不二…?」
「…手塚、…………君が」
そして
「君が好きだ」
散らすなら、どうか君のその指で―――。
END
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