□ハナニウモレテ
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 散る花、散る華。

 最期の生を、どうぞ飾って。





 野放しにした四肢、乱れた髪。乾いた微笑いが口から漏れる。
 これを望んだのは私。
 総てを捨て切れなかった、弱い私。
 赤、緋、桃の鮮やかな花達が、仰向けになる私の視界で揺れた。

「…良いの?」

 片手で容易く掴まれた首。あなたは私に跨がりながら感情のない瞳で問う。
 何を、今更。
 理解ってるでしょう?
 途中でやめるのが一番さむい。
 その問いに返したのは一枚の微笑みで。
 きっとあなたの瞳には、酷く綺麗に儚気に、そして酷く滑稽に映った事だろう。
 “生”と同じ位の、人生の一大イベント。それと同時にその行為にリセットは許されなくて。
 今まで重ねて来た総てをこの一瞬で終える勇気があるのか、きっと誰かはそう説くだろうけどね。
 その重ねて来たものが全部価値のないものなら、何も問題ないじゃない?
 そう、賭けなんかじゃない。
 これは一つの遊び。
 この世に生み堕とされるのが自分の意志じゃないのなら―――、
 私の首を掴んだままのあなた。
 あなたの顔を見つめて、ゆっくりと、一度だけ小さく頷いた。
 瞬間、揺らいだその瞳。
        チカラ
 私の首に大きな圧力がかかる。

「……か…はっ………」

 苦しい苦しいつらい。
 良かった、私はまだ痛みを感じる事が出来たんだ。
 最後の最後に気付く、なんて。
 その綺麗な金髪越しに、非情な空が嘲うのを垣間見た。
 通り過ぎた一陣の風。
 汚い生命の終わりは華やかで、あまりにも綺麗過ぎて。その美しさに耐えられなくて、苦しみに喘ぐ手で側に咲く花を握り潰す。
 ねぇ、何故泣くの?

「―――……」

 舞う花に咲く涙。
 ああ………綺麗だ。
 ありがとう、ありがとう、愛しい人。
 最後にその顔なんて、絶対、見てあげないから。

 散る赤、舞う緋、降る終焉。
 花に、埋もれて。





       END


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