□音
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 その音は、誕生か、崩壊か。





 刹那的な熱が全てを奪った、静かな、静かな部屋。
 互いに背を向け座るふたり。乱れたままのベッドが、先程までの情事を饒舌に物語っている。他の女となら何度も経験したこの時間が今は酷く長く感じられた。
 何と言っても、今ベッドの反対側に座っている男―――まさに身体を重ねた相手―――は、あの跡部なのだから。
 何故だろう。
 人は所詮ひとりだと。愛など全て幻想だと最初からそう諦めて、言い寄って来る女と片っ端から付き合っては別れ。
 温かく尊いものを得られぬ代わりに、孤独に怯える事も喪失に嘆く事もない。それで良かった。楽だった、はずなのに。
 戸惑っているのは、きっと他の誰でもなく俺だった。
 それでも。
 それをも掻き消す程に、名前も知らない感情が。仄暗い予感が、優しい毒の様にこの胸に染み込んで。
 制服を身に付け跡部が立ち上がる。反射的にその腕を取ると、青い目が僅かに見開かれる。
 だめだ―――もう。

「なあ」

 もう、戻れない。

「次は―――いつ会えるん?」

 嗚呼、ふたりの歯車が狂い出す。





      END


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