盾
□色
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あんなにも望んだ色は、もう。
赤く傾いた陽光が仄かな翳りを抱え、見慣れた部室を違う場所の様に染め上げる。
昼と夜の狭間、頼りなく胡乱な空間に伸びる二つの影。
柔らかな声が夕暮れに静かに溶けた。
「手塚」
そんな声で俺を呼ぶな。
戻れない自分に気付いてしまうから。
それさえも巧く伝える事は出来ずに、輪郭のぼやけ始めた背中を見つめる。振り向いて欲しいと微かに願う一方で、
振り向かれる事が怖いと―――そう思っている自分がいる事も事実だった。
昏くなる空。深さを増した陰に茶色の髪が揺れ、焦燥と、焦げ付く様な衝動が俺を蝕む。
何色にも喩えられない。
どんな言葉にもならない。
数少ない要素で創られた世界に音もなく降りたのは、酷く儚い色彩で。
白い朝も青い空も。赤い日暮れも全て置き去りにして、俺を染めたのは他でもないお前なのに。
「そろそろ―――帰ろうか」
夕影を背負い微笑うお前はもう、俺の知らない色。
END
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