□嘘
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 俺達は、一日一度、嘘を吐く。





「好きやで跡部」

 感情も思惑も読めない微笑みを浮かべ、その男はまた白々しい台詞を吐く。
 誰の事も受け入れない様な瞳で。
 微笑っているのに何故か泣いている様にも見える表情をして。
 何を探しているのかなんて訊けるはずもない。こいつはそう、何も求めてはいないのだから。
 俺がどんな言葉を返すのか判っている癖に、忍足は同じ表情でそれを待つ。するりと音もなく。搦め捕る様に指が触れて、俺は僅かに身体を強張らせる。
 背後で微笑う悪魔。
 すぐそこに在るはずの顔が、肩が、手が、薄闇に溶けて。
 振り払いたいのに。
 引きずられるのは。
 抜け出せないのは。
 いつか置いて、行かれるのは―――。
 その手をほどき逃げる様に数歩離れる。無駄な事だと理解っていても。色を失くした室内に、ふたりはまた歪みと依存を許してしまう。

「俺は―――好きじゃない」

 きっと、最後にして最大の嘘は、互いに奥に秘めたまま。





      END


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