□2010,12,25
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 何時間も悩みに悩んで買ったプレゼントも。ふたりで食べようと思っていたケーキも。今は無性に淋しく私の手からぶら下がっている。
 期待していた訳じゃない。
 でも心の何処かで信じていたのかもしれない。
 ―――クリスマスはせっかくの土曜じゃけ、一緒に居って。
 浮かんだ優しい顔とやけに甘ったるい声はけれど、目の前の部屋から漏れる楽しそうな笑い声に一瞬で掻き消された。
 高ぶる気持ちを抑え仁王君の家までやって来た私を待っていたもの。玄関にあった女物の靴。数センチの隙間から見えた裏切り。
 家の鍵を開けたままにしていたのは。
 わざとですか、仁王君。
 私が今扉一枚隔てたこの場所に居る事も、貴方はきっと気付いているのでしょうね。
 もう恨む気にもなれない。
 残されたのは、こんなひとを好きになってしまったのだという事実と、分け合う人のいないこの荷物だけ。
 男女のはしゃぐ声と明るい音楽が扉越しに聞こえる。隙間からわずかに見えたその姿をやはり愛しく思う私は、本当に馬鹿だ。
 しばらくその場に立ち尽くした後。踵を返し、扉の向こうの貴方に、貴方と過ごすはずだったこの夜に背を向けた。
 気付かれないように静かに階段を下り、玄関を出て、暗闇が蠢く冬空の下ひとり歩き出す。

「もう―――要りませんね」

 思わず零れた言葉は、何を示したものだったのだろう。
 空気が冷たい。頬が、指先がぴりぴりと痛む。

 このプレゼントもケーキも捨ててしまおう。
 貴方への想いと、一緒に。






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