記念

□道
1ページ/2ページ



雛森を守らなきゃ。

俺は強くならなきゃ。

何があっても…。

命に変えても。






(道)



全てが…終わった。





藍染は、黒崎の手によって衰え、力を手放すにおえなくなったそうだ。

きっと、もうすぐ四十六室の手によって裁かれる。


お伽噺でいう、めでたし、めでたし。



こんなに負傷者と死者を出した一連の戦いは、一時の夢の跡のように終わりを迎える。









じっとしていられなくて病室を抜け出した。

久し振りに感じた風は、生きている実感をもたらす。


「俺…生きてんのか。」



それが、気にくわなかった。





尸魂界全体を見える丘に佇んで、精神を尖らせる俺。










まず、南から感じたのは阿散井の霊圧。

それは乱れて、戦っている様子を伺わせる。


『俺は、結局…ルキアを守れたって、とてもじゃないけど言えませんでした。』

俺の病室にたった一人で来たあいつは、そううつ向いて。



だから、強くなりますと、それだけ…残して去っていったっけ。











次に西からは黒崎たちの霊圧。

否、話には聞いていたが、あいつの霊圧は虫の息だった。


それでも、隣にいる井上織姫の泣き顔を笑うあいつは心底幸せそうで…羨ましい、確かにそう思った。


きっともうすぐあいつは俺達が見えなくなるのだろう。

だけど、何か確信めいた思いがあったのだ。



あいつは、大丈夫だ…と。











そして、東からは…俺の部下。

松本の震える霊圧。


あの後、誰も市丸の件に触れることはなかった。

けど、…何故か伝わった。




今更言ったって卑怯だが、…あいつは、多分。
俺と…同じだったから。




一人の女の世界を…守りたかっただけだった。

一人の女に、命を…かけたかった。

一人の女が…たったそれだけが、自分の全てだった。



松本のあの顔を、俺は一生忘れないと思う。

誰もいない物影で、哀しみに満ちた顔で、呟いた。

好き…ただそれだけ。

それだけが、あいつにとっての全てだと思ったから。













何もなかったように流れる穏やかな日常。

雛森の胸に刺さった俺の剣。





どちらも事実で、時は流れる。






「なら、俺は…」


進みたい、そう思うんだ。



俺はまだまだ餓鬼で、幼くて…。

好きな女一人守れない。







けど、…皆がそれぞれの道を歩いているから。



その乱れる霊圧が。
取り戻された霊圧が。
消えかかった霊圧が。
いつも小さな霊圧が。
もう今はなき霊圧が。
小刻みに震える霊圧が。

そして。


病室でなんとか保たれた霊圧が。


皆ボロボロに傷付きながら、それでも愛の大切さを伝えているように感じるんだ。

誰かを愛するのは、辛くて苦しい。



けど、進め。



何かに背中を押されたように感じた。








「雛森…好きだよ」

晴天にぽつり。

愛と涙。










『泣き虫な僕は、唇を噛み締めて前に進む』
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ