愛玩少女

□06
1ページ/7ページ


 あの男が見せた異常な執着心の根本たるものは、思えば自分の中にもあったのかも知れない。
「お邪魔してます」
 たった一言その笑顔、それらは自分の周りにいる少女達と何等変わらず全て取るに足らないものなのに、心を掻き乱される自分に気が付いた。
(――兵部の思う壷だ)
 溜息を吐き開けた部屋の扉の向こうにそれはいた。何も知らず無邪気に微笑むその姿を見つけ、皆本は驚いたように目を見張る。まさかあの男、催眠能力でも――そこまで考えて、今朝薫達の交わしていた会話を思い出す。
「ああ、いらっしゃい」
 今日は確か夕食込みで遊びに来ると言っていた。うまく笑う事が出来ただろうか、三人のエスパーが自分をじっと見詰めるのに一瞬心臓が高鳴る。それを見計らったかのように皆本はん、と葵が口を開いたものだから、返事をした声が少し上擦ったような気がした。
「どうした、葵」
「それはこっちの台詞――夕飯の買い物はどないしたん?」
「……夕飯?」
「あら、今日はいろはちゃんも一緒にご飯って言ったじゃない」
 まさか忘れてたの、と詰め寄る紫穂には思わず一歩後退る。しかしこの胸の内を悟られたわけでなかったらしい。それにはつい安堵の息を吐いた。
「ああ、昨日買ったばかりだからそれで十分だよ」
「何だよ、折角仲直り記念だったのにさ」
「大丈夫だよ、下手なものは作らないから」
 唇を尖らせる薫の頭を撫で、皆本は着替えるために一旦自室へ向かおうとする。その途中、ゆっくりしていってくれ、と三人に囲まれていたいろはに声を掛けたがその目を見る事は出来なかった。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ