タユタ

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 いろはの記憶を消した、それから後の事はよく覚えていない。どれ程長い時間ああしていたのか、どうやって不二子に彼女を引き渡したのかはまるで記憶になかった。ただわかっているのはもういろはがこの腕の中にいない事――もう取り戻せない事だけだ。
 あの温もりを失ってからもう半年以上が経つ。死んだ筈の存在を介入させた事により歪んでしまった未来への道は、その"死"によって再び破滅へと向かう。それが正しいのかはわからないが、いろははそれを願った。自分という存在が消える事になろうとも。
 いろはは今、一切の記憶をなくして新しい人生を生きている。あれから一度だけ薫に会い、彼女からいろはが不二子に正式に引き取られた事、学校に通い始めた事を聞いた。何もかもを忘れ、普通の少女として今を生きているのだと――そうしてそれに当たり障りのない返事をして後、薫にさえ会っていない。歯車は全て噛み合い止まっていた時間はゆっくりと動き出したのだ。
 たったひとつの時間を残して。


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