愛玩少女

□04
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 重い微睡みから目覚めて、まずいろはが気付いたのは異常な程の口の渇きだった。昨夜縛られた腕もそのままで、肌を隠すようにタオルケットが掛けられている事だけが救いである。僅かに顔を傾けてわかったのはもう日が高く昇っているという事くらいだろうか。学校はどうなったのだろう、どの道体は怠く碌に動かせない上にもう声も出せない。痛む喉から微かに漏れた呼吸に影が落ちた。
「――起きたかい?」
 逆光を背負い微笑むのは、昨日散々に弄んだ男だ。彼が無邪気に笑って見せるのをいろははぼんやりと見詰める。そうして渇いた唇を小さく動かした。
「きょう、すけ」
「よく寝てたね。もう昼前だよ」
 学校には連絡しておいたからとクスクス笑いながら京介はベッドに腰掛ける。その手の中でペットボトルに入った水が揺れるのをいろはは目に留めた。昨夜は余程気が立っていたのか、彼の言う"おねだり"とやらをしても何も貰えなかった。勿論、水でさえ。狂いそうになる意識を捨ててしまわなければどうなっていたのだろう――焼け付くように熱い喉が苦しそうに音を立てた。
「……喉が渇いたろう、いろは」
 上手く声を出せないいろはは小さく頷いて見せる。それを見た京介は優しく頬を緩めて、サイドテーブルにペットボトルを置いた。ベッドの直ぐ側、体を起こせば未だ纏められたままの手でも届く。普段なら何も難しい事ではない。けれど今、体は重しを付けられたように動かないのだ。いろははもう一度京介を、今度は縋るような瞳で見詰めた。
「あげるよ――勿論、君が手に出来ればの話だけどね」
 子供の純真さは時に残酷なもので、今の彼が湛える笑みが正にそれだ。何が彼の気に障ったのか、もうわからない。


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