タユタ

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 自分が消える事であの人は幸せになれるのだと思った。また元通りになって、あの人も何かに縛られる事もなくなって、全てがうまくいくのだと本気で思っていた。
 でもそれは何も考えていないのと同じだと、夢の中で誰かの声がする。私は何度あの人の前から消えて、何度あの人を絶望の淵に立たせるのだろう――

 瞼の裏にまで差し込む眩しい光に意識が浮上する。ぼんやりとした頭には子供の笑い声が響き、天国とはやけに現実に類似したものだと思っていると、優しく頭を撫でる手があった。その感触を私は誰よりも知っている――いろはがはっとしたように目を開いたそこには、太陽の光に銀髪を透かし微笑む少年がいた。
「おはよう、いろは」
 それはついこの間にも目にした光景で、彼の背後には抜ける程に青い空が広がっている。もしこれが天国であったとしても納得だといろはは言葉に出来ないでいると、天使にも見紛う少年はくすりと笑った。
「残念だけど天国じゃないんだ」
「……京介、さん?」
「目が覚めてよかったよ、いろは」
 どうしようかと思ったと安堵の笑みを浮かべる京介の言葉の意味を悟り、いろはは勢いよく起き上がる。その瞬間頭が少し痛んだ。そうだ、私は屋上から飛び降りて、それから――しかしここはどう見ても普通の世界で、様々な人の行き交う公園である。その上今の今まで彼の膝を借りて眠っていたのか。京介は苦笑しながら、辺りをゆっくりと見渡すいろはの肩を掴んだ。
「落ち着けよ、いろは」
「でも、私……!」
「大丈夫さ、この事は不二子さんも了承済みだよ」


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