愛玩少女

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「お兄ちゃんって、京介?!」
「薫ちゃん、知ってるの……?」
「知ってるも何も、この人――」
 そこまで言いかけた紫穂の目の前へ皆本の手が伸ばされる。制された事を知り、紫穂はぐっと押し黙った。
「兵部、この子はノーマルじゃないか。何故お前の妹なんだ」
「面倒だから表向きはそういう事にしてるだけだよ。それとも親子に見えるかい?」
 年齢的に考えれば親子どころか祖父と孫だが、確かに見た目でいうと兄妹だ。しかし今はそんな事などどうでもいい。クスクスと馬鹿にしたように笑う京介に、皆本は拳を握った。
「……お前は何がしたいんだ」
「何って?」
「とぼけるな!薫達と同じ学校に転校させて、何が目的――」
「いろは、こっちへおいで」
 皆本の声を遮り、京介はいろはをその元へ呼ぶ。彼女はびくりと肩を跳ねさせ俯いた一瞬後、彼の元へと駆け出した。
「……そんなに怒鳴るといろはが驚くだろう、皆本クン」
「ッ兵部――!」
「別に何か企んで転校させたわけじゃないよ。ただ、その方がこの子にもいいかと思っただけさ」
 ふと、皆本はこの場に違和感を覚える。傘を閉じ少女を背後から抱き締める京介はいつもと同じように平然と笑っているが、その腕の中の少女はまるで状況が飲み込めていないといったように目を丸くしているのだ。そうして皆本は思う、まさかこの少女は――
「そう、いろはは何も知らない」
「お前、考えを――!」
「だから言っただろ?薫達の通う学校の方がこの子にもいいかと思った、それだけだよ」
 京介はそれの一点張りだ。何か企みがあるのだろうと皆本は思うが、子供達の、しかもいろは当人がいる前で疑いを問い質すような事は出来ない。皆本は言葉を吐き出して後悔するよりも、飲み込む方を選んだ。


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