タユタ

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「……こんなに高く、自分の足で空に近付ける日が来るなんて思いませんでした」
「いろは――」
「これが、未来なんですね」
 先ほど掴んだイメージは天空、何もかもを吸い込んでしまいそうな程の青空を背に、少女はバベルの屋上で微笑んで見せた。その柔らかな笑顔は真昼に輝く月を彷彿とさせる程、異質でありながら美しい。少し距離を置いて対峙する二人は駆け寄る事もせず、京介はふと、イルカが見せた予知を思い出した。まさか自分も同じようになるとは――そう思うとどうにも可笑しくて、少し噴き出してしまった。
「未来は変わるんです。きっと、どんな小さな瞬間にも」
「へぇ、奇遇だね。僕も今同じ事を考えていたよ」
「……たった一人、消えた筈の人間が甦っただけで未来は変わるんです。意味もなく」
 屋上を囲う柵に、いろははとんと背中を預ける。彼女が纏う衣服の裾を些か強い風が軽やかに舞い上げた。
「京介さん、私がここに生きているだけであなたを翻弄してしまう――未来はいとも簡単に変わってしまうんですよ」
 ほら、今も。そう髪を押さえ、言葉とは裏腹に彼女の頬に湛えられる満面の笑み。目が回る思いで京介はいろはを見詰めた。


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