タユタ
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未来を変える事は出来ない。私に出来るのは元の流れに戻す事だけ――それが例え、永遠の決別になろうとも。
「……準備完了!」
ぱちん、と軽い音を立てて口紅を仕舞う。外はまだ太陽も真上を目指している途中の事で、今日は早起きしたものだと不二子は背を伸ばした。
「あの子、起きてるかしらね」
昨夜買い物に行こうと約束したいろはの事を思い出し、不二子は鏡の前でにっこりと微笑む。少しずつ時間が戻って来るような、そんな感覚さえしていた。今はまだぎこちないけれど、これから幾らだってやり直していく事は出来る筈だ。彼女がそう息を吐いた時だった。
「――君は本当に都合がいいね、不二子さん」
鏡越しに交わす視線が不敵に微笑みかける。彼は思いも掛けずに現れた。
「……兵部京介?!」
ここはバベル本部、曲がりなりにも管理官の部屋である。彼はここにいてはならない筈の人物だ。殺気を隠す事なく不二子が振り返れば、京介は少し間合いを取るために離れた。クスクスと笑う彼の瞳に、不二子など端から映ってはいないのだ。
「何しに来たのよ」
「やだなぁ、メイクが終わるまで待っててやったんだぜ?」
「……今すぐ殺してやりたいくらいムカつくわ」
「今すぐは勘弁してくれ、……やる事があるもんでね」
京介がおどけてみせても不二子の殺気は変わらない。いつしか、彼の目もまた射抜くように彼女を捉えていた。