タユタ

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「いろはちゃん、大丈夫?!」
 薫が叫ぶように言うその言葉にいろはは漸く我に返った。焦点の合った目で辺りを見渡せばまだ公園で――違うところといえば、もう彼が消えてしまったところか。いろはは小さく頷いた。
「それにしても……いろはちゃん、あなた最初から兵部少佐がここにいる事知ってたの?」
「嫌な予感したから来てみて正解やったけど、何で言うてくれんかったん」
 危なかったんやで、と諭すように覗き込む葵にいろははやはり小さくごめんなさい、と返すばかりだった。いろはの目に今は何も映らないのだろう。その瞳は冷たく、薫は深い海の底を思い出す。ひとりじゃないのにひとりきり、伸ばせない、手。それだからなのか、薫は進んでいろはを抱き締めた。
「単独はなしって、さっきばーちゃん達言ってたじゃん」
「……ごめん、なさい」
「次からはあたし達も一緒だよ?一緒にさ、もっといい方法考えよう」
 遠くから皆本の声も聞こえ、薫達の顔も漸く綻ぶ。けれど季節に似合わず冷え切った体が痛い――震える手を誰にも見つからないように握り締め、いろははまた僅かに頷いた。


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