タユタ

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 馬鹿な――皆本はそう朝一の会議で大声を上げる。机を囲みバベルの上層部が揃う中、皆本の向かいで異質な少女は俯いている。
「そう言っても、決定事項だもの――いろはは私の補佐官。その任務はパンドラの首領、兵部京介を捕らえる事よ」
 昨日の夜中に決めた事だから、そう不二子はいつもどおり笑って見せる。皆本の鋭い視線も気に留めていないようだ。どちらかといえばこの状況を飲み込めていないのは局長である筈の桐壷で、存在については知っていたものの、一応目覚めてからは初対面の少女に戸惑っている。その突然の任官に訝しむのは同席していたチルドレンも同じだったが、皆本はそれを怒りとして表した。
「一体何を考えているんですか管理官!誘拐監禁の次はこんな危険な任務に就けるなんて――」
「誘拐監禁って人聞き悪いわね!保護したのよ、保護!」
「今はそこが争点じゃないでしょう?!……僕は反対だ!」
 こんな女の子をむざむざ危険に曝すなんて、皆本がそう強く机を叩けば漸くいろはが顔を上げた。その目は真っ直ぐと、一週間前とは違う強さで皆本を見詰めたのだ。
「私はあの人を、京介さんを止められないかも知れません」
 未来を変える事も出来ないかも知れない、でも――そう続けるいろはの決意は揺らがない。そうしていろはは笑って見せた。
「――未来を切り開く事は、私にしか出来ないのです」
 それは見る者の目を奪う程に儚げなもので、どこか自嘲的でもある。胸が痛むのは自分達が少女の幸せを勝手に決めたからなのか?皆本は押し黙るほかなかった。


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