タユタ

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 ここへ帰ってくるのは一日ぶりで、そう長く空けたわけでもない――今回は。京介はそう自虐気味に口許を緩めながら組織のアジトとするこの場所に降り立つ。背後を振り返れば、昨日と同じ月が輝いていた。
 しかしたった昨日の事なのに、世界の凡そ全てが違って見える。それ程までに彼女は自分の中で大きな存在だったのだ。
「……だったんだけどね」
 目を閉じれば、蘇るのはまだ未来を信じていたあの頃の二人だ。けれどその信じた未来は二人の道を別にしてしまった。何がそうさせたのか、どうして違えてしまったのかもうわからない。
 ただ最後に見た、今にも泣き出しそうになっていた彼女の顔だけがどうしても焼き付いて忘れられないのだ――簡単に、揺れる。
「……少佐」
 背後から突然掛かったのは、今はもう聞き慣れた青年の声だ。落ち着いた彼のそれは言葉こそ少ないが、しかし京介の帰りを待ち侘びていたのを感じさせる。それと同時に全てを察しているかのようで、ああ自分はこの子達にこんなに心配を掛けていたのか、そう京介は振り返らずに微笑んだ。
「今帰ったよ、真木」
「……取り敢えず、部屋へ。お話はそこで聞きます」
「話す事は特に何もないけど――そうだね、僕としても疲れたし部屋へ行こうか」
 それに君は何か話したい事があるようだ。京介が含みを持たせてそう言うのに対し、真木は何も言わずに踵を返した。


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