タユタ

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 日も暮れ始め漸く涼しくなってきた公園に、人の姿は疎らだ。だからこそ彼の姿は見つけやすかった。彼はこの敷地の端にある電灯の下で、暗くなっていく空を見上げぼんやりとしている。
 会いに行く、と言い出したのは自分だが、もしかすると彼は現れないのではないかと思っていた。しかしそれも杞憂に終わったようで、彼は薫に気付くとゆっくり体を動かし微笑んだ。
「……まさか君から呼ばれるとはね、薫」
「京介――」
 さ、と風が流れる中、薫はうまく笑えないでいた。力無く微笑む様はまるで自分の知っている彼ではないような気がして、薫は言葉を失う。
「君がそんなに心配することじゃないさ、僕は平気だ」
 ただ最近どうにも寄る年波には勝てなくてね、と首を竦める。それでも俯く薫に、京介は読み取った本題を自分から投げ掛けた。
「……いろはは、元気かい?」
「うん、あたしや葵達が話し相手に――友達になって、一緒に元気にやってる」
「そうか……君達がいるなら安心だな」
 寂しさとも悲しさともつかない彼のその表情は、少し窶れたような印象を与える。彼女を奪えば京介がこうなる事を、バベルの大人達は見越していたのではないか――もしそうでないにしろ、胸の内に芽生えつつある不快感を拭う事など薫には出来そうもなかった。
 

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