タユタ

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 いろはを保護してかれこれ一週間が経つ。彼女は今バベルで、彼女のために特設されたECM仕様の部屋で何不自由なく過ごしていた。いや、閉じ込められていると言った方が正しいのかも知れない。部屋の片側は一面がガラスとなっており眺めもよいものの、もう片側の壁は一面ではないが比較的大きなマジックミラーとなっており、不二子はここ一週間ほど隣接するその小部屋に篭りっきりだった。
 そんな中途半端な部屋でいろはは何もせずじっとしている。ゆったりとした椅子に座り、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
「……あの子ずっとああいう調子なのよ。何も話さないし、何も聞いてくれないの」
「そりゃあそうでしょう」
 困ったわね、と今更頭を抱える不二子に皆本は溜息を吐く。マジックミラー越しにいろはの様子を窺うも、彼女に何の変化もない。ただひたすらに空を眺め、唇を噛み締めているようだ。
「今の彼女にとったら、彼女を兵部から引き離した僕らはこれ以上ない悪者ですからね」
「違うって言っても聞いてくれないのよ……」
 ああもう、と不二子は埓が明かないとばかりに頭を掻く。
 しかしこの不二子のやり方は些か強引であると皆本や賢木は考えていた。確かに兵部のウィークポイントであろう彼女に接触することは間違っていないだろうが、彼女は何も知らないノーマル、一般人といっても過言ではない。その彼女を無理矢理軟禁するのは幾ら何でもやり過ぎだ。事実、彼女はこちらに心を開かない。一週間が経ち、どちらにも厳しい状況に変わりはなかった。


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