タユタ

□07
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「じゃあいろは、そろそろ出掛けてくるよ」
 夜までには帰るから、そう京介は微笑む。
 今日は一日京介が不在となる。前に言っていた"今の家族"の元へ行くのだ。いろはを紹介する前に話しておきたい事ややっておきたい事があるから、と京介は言う。
 いろはは京介が立ち上がったのを見て、テーブルの上に置いてあった小さな紙袋を手渡した。
「京介さん、よければこれを皆さんで召し上がってください」
 余りよく出来ていませんが、といろはは苦笑する。京介は受け取った紙袋の中身をこっそりと透視した――どうやら作り方を覚えたばかりの洋菓子らしい。彼女の謙遜とは裏腹に、上出来過ぎる程だ。
「有り難う。これはきっと争奪戦になるね」
 その前に今ここでひとつ食べてしまおうか、と京介が冗談めかして言うと、いろはははっとしたように口元へ手をやった。
「……もしかして、そんなにたくさんいらっしゃるのですか?」
「大丈夫だよ、全部僕が食べてしまえば足りても足りなくても問題ないさ」
「そういう問題じゃ……」
「嘘だよいろは――大丈夫。これから、幾らでも作ってやってくれ」
 そのためにちょっと出掛けてくるよ。京介はいろはを引き寄せその頬に軽くキスをした。その突然の事にぱっと朱を散らした彼女を見届け、京介は姿を消した。
「――京介さんの、馬鹿」
幸せ過ぎる、毎日。


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