タユタ

□04
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 この静寂を無機質な着信音が掻き消した。不二子の持ち物らしい、彼女は忌ま忌ましそうに電話を取る。その様子に今まで俯いていた京介も顔を上げた。
「……賢木クン?!今ちょっとそれどころじゃ――」
 最初は牙を向くような勢いだった彼女は次第に声を失った。相手が賢木、医療従事者でこのタイミングなら間違いなくいろはのことだろう。
 賢木はいろはが次第に今にも覚醒しそうなことを告げるが、目覚めるためにはやはり一つの方法しかないことを示唆した。わかりきっていたことだが、不二子は下唇を噛み俯いた。
「でも、今は――」
 不二子の心に迷いが生じる。その瞬間を京介は見逃さなかった。
 電話に気を取られていた不二子を突然巨大な力が包み、気付いた瞬間に後方へと吹き飛ばしてしまった。余りの衝撃に閉じていた目を開くと、更に距離の開いた向こうで京介が嘲笑っている。その上いつの間にか電話まで京介に取られてしまっていて、不二子は自分の失態に小さく舌打ちをした。
「場所はバベル本部の最下層……当然といえば当然だな、誰も手が出せない」
「……兵、部!」
「だがそれは――僕が相手じゃなければの話だ!」
 京介は更に不二子の背後にあるビルを崩壊させる。幾ら夜中とはいえ、これを放り出すわけにもいかないと判断した不二子は、目の前から消える京介をみすみす見逃したのだった。


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