タユタ

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 あれから暫くいろはの傍に居続けた不二子がその異変に気付いたのは、至極当然のことだった。
 彼女に冷凍睡眠を施してから、何度か目覚めを期待して蘇生を試みたこともある。だが、彼女は何の反応も示さなかった。いろはまでも同じ時間の流れに巻き込んだのは、確かに未来を変える力を望んでのこと。しかし彼女はやはりそれを望んではいなかったのだろう――そう祈るようにしてひざまづいていた不二子の目に、いろはの指先が映る。
 ガラス越しにでも重ねようと、その手を伸ばした時だった。
「――え……」
 触れたケースから僅かに彼女の声が聞こえたのだ。それまで抜け殻同然だった不二子も息を呑む。この六十年以上もの間、例え睡眠を解除しても反応がなかったのに――今度は彼女の言葉を読み取ろうともう一度ガラスケースの中の彼女に意識を集中させる。
 不二子は未来が変わるのを確信した。


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