タユタ

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 今ではすれ違いいがみ合う二人となってしまったけれど、この日ばかりは血の繋がらない姉に会わずにはいられなかった。
 今日はあの時僕が全てを失った日で、彼女ならそれを分かち合えると思った自分の女々しさを少し恨む。
 どうしたってあの頃になど戻れない。それと同じことで、未来はいつでも定まっているのだ。
「僕はそれを嫌というほど感じたんだよ……あの時にね」
 今はあの時どうにも出来なかったひとつの未来。

 今日は偶然にも満月で、水面に淡く煌めいている月を華奢ながらも男らしさを併せ持った掌で京介はそっと掬った。
 この暗闇をその水温に反映したような水は、その手からさらりと零れ落ちる。
 勿論輝く金色も深い紺色もこの手には残らない。
 浮遊して水面に立ち尽くしている京介は、自嘲の笑みを隠さなかった。



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