恋愛御題

□05)気付け!
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 君は今まで生きてきた中で不可解なことや説明のできない現象に遭遇したことはないだろうか。何でもいい、突然携帯の電源が落ちただとか何もない場所で足を取られただとか、専門家ならその現象に名前を付けて直ちに対処できてしまうようなことでもいい。
 ほら、今もーー

 無数の人間が行き交う雑踏の中、一人の女性がその足を止める。そうしてきょろきょろと辺りを見回した。
「……探してる探してる」
 ふふ、と笑うこの声にも気付かない彼女は首を傾げた後また流れに身を任せて歩みを進め出した。それは笑い声の十数メートル下の地上で起こる出来事であり、大きく背伸びをした兵部京介によって今日も繰り広げられるのだ。
「さて、次は何をしてやろうかな」
「マダヤルノカヨ」
 当然じゃないか、と京介は白銀の髪を靡かせて悪びれもなくそう言う。それにますます腹を立てるのは人ではなくモモンガであり、更に言えば彼らが揉めているのはとあるビルの屋上で、その上信じられないことに学生服の少年は建物の一角から宙へと足を踏み出した。
 そんなことをしたらたちまち落下の一途を辿って地上じゃ大騒ぎじゃないかって?でもそんなことは有り得ない、なぜなら僕はーー
「エスパーだったら誰もが一度はやることだろ?」
 この世界でも類い稀な超能力者なのだから。
「八十超エタジジイガスルコトジャナイダロ」
「うるさいな、置いてくぞ桃太郎」
 そう言い宙を翻れば桃太郎と呼ばれた不思議なモモンガは尚減らず口ばかりを叩きながらも京介の肩へとしがみついた。何故モモンガが喋るのかって、それも君らにしたら不思議だろうーーでもそれがエスパーなのだ。

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