愛玩少女

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 出会いは最悪にして最上の背徳的な感情に包まれていた。こんな幼い少女が自分の運命を握っているなんて考え難く、また許し難かった。そう、例えるならば一点の光もないほどの憎しみだ――これを愛だと呼ぶことは、一度もなかった。

「――はい。出来上がり」
 静かな空間にかたんと軽い音が響く。綺麗な模様の入った柘の櫛が机上で奏でたそれは最早毎朝恒例となっており、そうして一日が始まりを告げる。
 ソファに横向きになって腰掛けた京介が目の前で同じように大人しく座る少女の肩をぽんと叩くと、幼いその少女――いろはは満面の笑みで京介を振り返った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 今しがた解かしたばかりの髪がさらりと流れる様を見て、京介も満足そうに微笑む。物々しいこの地下五百メートルの息苦しい世界で、明らかな違和感がそこにはあった。
 あの狂った満月の夜にいろはを拾ってから、半年程が経っていた。とは言っても京介は表向きには捕らえられているわけで、いろはの存在を知っているものはこの世に自らの組織だけなのである。
 ここの管理官である不二子は長い長い夢の中であるし、禁じられた筈の超能力だって使えるため、本当に少女の存在は誰も知らなくて――いや、この少女でさえ自分が何故こうして京介の傍にいるのか、わかってはいないだろう。
「京介、遊ぼう」
「いいよ、何がしたい?」
「んー……かくれんぼ?」
「残念だけどここには隠れる場所がないなあ……今度外で皆を集めてやろう」
「うん!あ、でも超能力は駄目だよ」
 頬を染め身ぶり手振りを添えながら必死に喋るいろはに、京介は気付かれないようその口許を歪めた。
「そうだね――君は使えないから不公平だもんな、いろは」
 


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