ハナミズキ

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「ねえ、まだですか?」
 本日実に十七回目のその質問に、真木は大きく溜め息を吐いた。
「……五分前にも言っただろう、昼過ぎにはお戻りになられる予定だ」
「昼過ぎって、いつですか?」
「まだ朝の九時だぞ!……それに少佐は気紛れだ、余計にわかるものか」
 そう、この組織パンドラのボスである男――京介は今このアジトにはいない。それも五日程前から、何やらどこかで良からぬこと、基仕事をしているらしい。
 真木のデスクに肘を付きながら、いろははちぇー、と頬を膨らませた。
「だって早く少佐に会いたいんだもん。五日とか長いよ真木さんの鬼畜!」
「……この間サボって遊園地に遊びに行くからだろうが!」
 真木はそう言葉を強めてだん、と思い切りデスクを叩く。確かに遊園地へふたりで遊びには行ったが、そのことと京介が五日も船を空けることにどんな関係あるというのか。真木が言うのだからあるのだろうが、いろはにはまだぴんと来ないようだった。
「私も少佐と行きたかったです」
「……駄目だ、ややこしくなるからな」
「ひどい!」
「待て、電話だ」
 デスクに身を乗り出して抗議しようとしてみせるも、真木にそう制されるものだから不完全燃焼気味のいろはは唇を尖らせる。しかし電話に出た真木にいろはの心に更なる燃料が投下されるのだ、違う意味で。
「――少佐、御無事ですか」
「少佐!」
「うるさい!……ええ、それはまあ……とにかく、そちらはどういう――」
 代わって、と声に出さずに身ぶり手振りで必死に表すその様は何とも滑稽だっただろう。真木がいつしか顔を背けてもそんなことは関係なかった。いろはが朝の海も負けてしまうほどの輝きを表情に貼り付け、手を伸ばす。その圧力は無言であるにも関わらず、とうとう真木の心をぽっきりと折ってしまった。
「……ああもう!少佐、お時間は大丈夫ですか……はい、朝からうるさいのでいろはに代わります」
 勝った!こうしていろはは頭を抱えて溜め息を吐く真木から嬉々として電話を受け取ることに成功したのだ。


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