ハナミズキ

□04
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 今までにアイスを食べたことがないわけではない。けれどこうして食べるそれは何より格別なものだとまひとつ彼に教えて貰った。
「満足してもらえたかな」
 普段の数倍の時間を掛けて食べ終えたそれは、いろはの動揺した頭を冷やすのに一役買った。また京介にも同じことが言えたようで、少しの間の沈黙が彼を落ち着かせたらしい。漸く視線を向けることの出来た先の京介は、我が子を慈しむように微笑んで見せた。
「ごちそうさまでした、とっても美味しかったです!」
「それはよかった」
 まあ僕が作ったわけじゃないけどね、とおどけてみせるのも忘れない。彼のそんな表情も好きだ――とそこまで考えて、いろはは先程のやり取りを思い出した。
「そういえば写真、いいですか」
「ああ、そうだったね。滅多に来ることもないしいい思い出だ」
 そう言いながらベンチに腰掛けているふたりはそれぞれカメラと携帯を取り出す。いろははその携帯の電源を入れると、うわ、と小さく声を上げた。
「どうしたんだい?」
「……真木さんからメールがいっぱい来てる」
 勿論追跡を逃れるために電源を落としてはいたのだが、メール爆撃が十分に一度の間隔で送られてきている。時折電話も合わせながらなので相当な数だ。
 けれど途中で諦めたのか京介本人に切り替えたのか、間隔は次第に間延びしているようだ。画面を覗いた京介は苦虫を噛み潰した表情で溜め息を吐いた。
「……なら僕は今日一日電源落としたままにしておくよ」
「……それがいいと思います」
 取り敢えずそれらを全て見なかったことにして、いろはは携帯のカメラを起動させた。画面が切り替わったのを確認すると、隣に座っていた京介が更に近付いてくる。そうしてことんと頭を寄せるものだから、いろはは再び身体を強張らせた。
「ほら、早く」
 ああもうどこからどこまでが本当で、何が彼を助けた御礼なんだろう――さりげなく抱き寄せられた肩がぶつかって、いろはの頬は実が弾けたように赤く染まった。


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