愛玩少女

□15
1ページ/6ページ



「――どうだい皆本、あれがいずれ訪れるだろう僕の未来だ」
「ここは……戻ったのか!」
 ぱちん、と指の鳴る音がして、皆本の意識は現実の時へと戻る。そこはバベルの一室で、目の前には今息絶えた筈の男とそれを看取った筈の少女がいた。
 彼女は依然昏睡していて、目を覚まさない。恐らくは京介が無理に目覚めを妨害しているのだろう。だとすれば、まだ残っている話があると言うことだ。
「……お前がここまで見せてくれる理由は何なんだ、兵部」
「そもそもお前が知りたいと言ったんだろう、皆本。どうしていろはを傍に置くのかと――これが理由だ」
「あの未来のように彼女に看取られたいとでも言うのか?!そもそもあれが本当に訪れるかなんて……」
「いや、何度も確認したが未来は少しずつ変わっている。僕は本来死ぬべきところで死なずに生きているらしい――この子の元へ帰るために」
 京介は自分の腕の中の存在を見遣り、儚げに笑って見せる。惜しむらくは、その少女が自分に向けられた笑みを知らないということだ。
「でも――あの未来のいろはは、いつも最期には泣くのさ」
 どれだけ未来がその形を変えても、彼女の未来は変わらない。いつだって僕の最期を見届けて、涙する。そう余裕綽々な態度を封印してぽつぽつと呟くこの男は、その両手で少女を横抱きにして抱えた。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ