愛玩少女

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 結局そのあとはいろはが折れるという形で落ち着いた。こんなにも慕うあの男へ連絡を取ろうにも携帯は繋がらず、かといって逃げ出せるわけでもない。自分ではどうすることもできないと諦めた末のことだった。
「大丈夫よ、別にあなたをどうこうしようってわけじゃないんだから」
「……はい」
 そう言う彼女――不二子は安心してちょうだい、と微笑んだ。
 けれどそのあやすような笑顔に、いろはは何故か目を逸らす。いや、無理もないだろうか――恐らく兵部京介を思い出してしまうのだ。そのどこか寂しげな眼差しに。
「……とにかく、君は学校にも通える。明日も薫達をよろしく頼むよ」
「……行っても、いいんですか?」
「ええ、もちろんよ。ただ見えないところで護衛がつくわ――もちろんあなたを守るためにね」
 複雑そうな表情を浮かべるいろはの存在は、バベルにおいて機密事項のひとつとなった。ここへ来る経緯からして、至って特殊性のある事例であり人物なのだ。しかも兵部京介に繋がり尚且つ彼の罪の塊であるいろはをバベルから放すわけにもいかない。
 不二子でさえ記憶に掛けられたプロテクトは解除できなかったが、皆本が見聞きした兵部京介の言動から、虐待の事実があると捉えるしかなかった。
 また局長達には到底言えやしなかったが、皆本はその暴力が彼女の女性としての尊厳を踏みにじる域にまで達していると確信していた。不二子にも話してはいないのだが、恐らく彼女は気付いているだろう。
 少女は決して何も語らないのに。
「……君は何も心配しないで、僕達大人に全て任せてくれればいいんだ」
 いろははやはり頷くことも拒否することもなく、ただ視線を合わせないようにしていた。
 それが昨日の話だ。


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