愛玩少女

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 不二子の部屋は女性特有の甘い香りがした。別に足を踏み入れるのは今日が初めてでもないし、それどころかここ数日で幾度となく立ち入っている。
 皆本はこの部屋の主に促されるまま、腕に抱いていた眠れる少女を広いベッドへそっと降ろした。
「当分起きないし……さっさと本題に入りましょうか」
「ええ」
 ほぼ自分専用の椅子と言っても過言ではないそれに腰掛けた皆本と、すぐ脇でいろはが眠るベッドに腰を降ろした不二子は真面目な表情で息を吐いた。
「――本当だったのね」
 その言葉の意味は彼女の仕草ですぐにわかった。不二子はしなやかな指でいろはの手首に未だ巻き付けられたままだったリボンを外す。そこには消えかかってはいるものの、依然として赤い擦り傷が残っていた。
「……あいつ、何を考えてるのかしら」
「管理官……」
「こんな子どもにまで手を掛けるなんて――そんなことをするような奴じゃなかったのに」
 不二子は褪せた郷愁をその横顔にのせて、瞼を伏せる。その長い睫毛は微かに震えていて、とてもではないが動揺を隠し切れない様子だ。
 動揺と言えば今は眠るいろはもそうだろうが、皆本だけは己の心に静寂が広がるのを敏感に感じていた。


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