愛玩少女

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「――兵部!」
「感心しないな皆本……僕のいない間にいろはをたぶらかそうったってそうはいかない」
 少女の背後にふわりと降り立った烏のごとき少年は、遠慮もなく彼女を抱き締める。耳元に顔を寄せる男がくすぐったいのかそれとも羞恥からか、いろはは頬を桃のように染めて固く目を閉じた。
「不二子さんをやったのもお前だろ?」
「……ああ」
「あんな痣くらいで保護なんてさ、バベルのおめでたさには本当に辟易するよ」
 からからと京介は笑う。だがその目に宿るのは静かな怒りとでもいうのか――いろはが京介の服に指を食い込ませるのを皆本が見過ごすはずもなかった。
 それが何を意図するものかはわからない。だがそれを目にすることで自らの身体にかっと熱が宿るのを感じながら、皆本は更に詰め寄った。
「事実として認めるんだな!?」
「僕は別に認めてやってもいいけど……場所を変えないか?」
 こんな目立つところでは可哀想な話だからと京介がちらりと腕の中の少女へ視線をやる。どう気の毒なのかは聞けやしなかったけれど、だからこそ皆本には頷くしか出来なかった。
「いいだろう……だが場所は指定させてもらう――バベルの特殊監房だ」
 京介のために作られたそこを選んだのには勿論意図がある。それはこの男も充分分かっているだろうが、いろはに兵部京介イコール犯罪者としての一面を刻み付けるためだ。
 もっともそれがどれほどの威力を持つかは分からないけれど。
「……ま、静かだしチルドレンも来ないだろうし構わないよ」
 案の定、二つ返事で了承する。その男が浮かべる余裕の表情が皆本に屈辱を打ち込んだ。
 そうして京介が掌を翳した瞬間、静かだった通りから三人の姿は消えた。何の痕跡も残さずに――彼は消えることが出来るのだ。


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