INZM

□いいじゃないか、
1ページ/2ページ

暗い。
闇の様に暗い空間。
その中に、二人の少年が居た。
共通点は、白いマフラーを着けていること。
一人は吹雪士郎…この二人の…双子の兄で
もう一人はアツヤ…このオレだ。
真っ暗なはずなのに、俺たちの姿は
何故かはっきりと見えた。

「アツヤ!止めて!!」

士郎の制止の声も聴かずに、オレは手元にあったサッカーボールを蹴った。
何度も、何度も、士郎に向かって。

「ア…アツ、や…」

何か言おうとしたみたいだが、
それは叶わなかった。
オレの蹴ったボールが、腹に当たったのだ。
士郎はパタリ、と倒れてしまった。

オレは、ふわりと跳ぶと、士郎の前に舞い降りた。
事情を知らないものからしたら、天使の様に見えたかもしれない。
でも、士郎からしたら悪魔だ。

オレは、ポケットから鋏を取り出した。
そして、士郎に刺そうとする。

「…どうして、オレが消えなきゃならねーんだよ!!」

泣いていた。

「…好きなのに…士郎のことが好きなのに!!」

士郎の顔が、オレの涙で濡れていく。
もう少しで、士郎の左胸に刺さる――

――その時だった

士郎がオレの手首を掴んだのだ。

「…!!」

その瞬間、暗かった空間が、静かに、だが確かに崩れた。

「アツヤ」

士郎は、オレの目を真っ直ぐに見た。
その目は、オレだけを映している。

「…ずっと、ずっと僕はアツヤを忘れない…」

「…ああ」

「アツヤ、」

許されないなら、誰も触れないようにして、ずっと愛し続ける、
士郎はそう続けた。

士郎は、オレを静かに抱き寄せる。
オレも、士郎の背中に手を回した。
相変わらず小さな背中だ。
でも、安心できる…最期なのだから――

オレは、薄い白の光を放ち、雪の様に消えた
そして、士郎の中に吸い込まれていった――

そして…『吹雪士郎』は何も無い空を見上げた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ