Library B
□有田の大地に残したものは
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戦の後の有田は、酷い有様だった。
屍の山。
それも遠目に見れば、精巧に作られた形が積み重ねられているのではないかと思うほどに、それらはすでに人間ではなかった。
分かっていた。これが戦なのだ。
鎧どころか、服を着ている遺体の方が少ない。
少しでも金になると思えば、何でもかんでも身ぐるみ剥いで持って行かれる。
おびただしい血の匂いの中、腐りきる前の肉に食いつく烏の羽音と鳴き声が、不気味に響いていた。
それでも、この有様を間近で見ることは覚悟の上。
武家の娘として産まれ、武家に嫁いだ青葉にとって、戦と無縁に生きていく人生など用意されている筈がなかった。
夫の元直は、武人という言葉がよく似合う男であった。
そんな夫を青葉は尊敬していたし、敬愛していたといえる。
いつ死ぬことになるか分からない戦国の世であっても、自分の夫は生きて帰ってきてくれると信じていた。
それが、どうしたというのだ。
三入の居城に戻ってきたのは、命からがら敗走してきた部下ばかり。その口から、信じられない言葉を聞かされた。
「元直様、討ち死にされました」と―。
その言葉そのものは、恐ろしいほどに冷静に受け入れられた。
首を取られた。この世の中で、負けたならそれは当たり前のこと。
しかし、部下たちは主の遺体を持って帰ることすらしなかった…いや、出来なかったのだ。
「それが、熊谷元直の末路ですか?!」
青葉は激高した。
側に居た息子に力ずくで止められるほどに、命がけで戻ってきた男たちを叱責した。
心のどこかで、彼らを責めた所でどうしようもないのだと分かっていた。
それでも、言わずには居られなかった。
首を取られても、残りの身体を持って帰って来れば、手厚く葬ることもできるというのに。
その晩は、息子に言われて大人しく寝所へ入った。
それでも、こうしている間にも、戦場に残された"夫"が、追い剥ぎ野獣の餌食になっていると思うと、眠れる筈もなかった。