Library B

□雪ならで、ふりゆくものは
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私が父に疎まれていることなど、分かっていた。

妹たちのことは、それなりに心にかけているらしく、嫁としてのもらい手をそれとなく探しているらしい。
兄たちはもちろん、家の跡取りとして大切にされている。

私だけが、誰にも構われることなく放っておかれる。
そんな日常が当たり前だった。

武家の娘が武道を嗜むのが、それほど珍しいこととは思わない。
私が剣を学び始めたのも、娘として自分を観てくれない父も、武人としてなら認めてくれるかもしれないという期待があったのかもしれない。

しかし、私は強くなりすぎた。
幼い頃は、楽しげに稽古をつけてくれた兄たちも、いつしか本気で私に勝てなくなり、それ以来相手をしてくれなくなった。

女の身故に武人にもなれず、かと言って女としても価値もない。

鏡の中を覗いたところで、私の顔は自分でも美しくはないと思う。
きつすぎる目元も、見るからに厳めしい口元も、意識しせずとも不機嫌な表情も、男が見て面白いものではないだろう。

まして、自分より腕の立つ女を、誰がもらってくれよう。
かと言って、男相手に下手に出て、媚を売ることなどできるはずもない。


父が私を疎んじる理由は、他にもあるであろう。

父の妹であるお幸叔母上が、今の旦那様に再嫁する前に妻であった人物、武田光和。
 
元々、我が熊谷家は、武田家の家臣であった。
しかし、その男は美しい人であった叔母上を顧みず、側室でもない女に入れ込んでいた。

やがてその女が子を産み、叔母上とは離縁したこともあり、父が完全に武田と縁を切り、祖父の敵であった毛利方についた。
何度も我が家に攻め込んできた武田光和は死に、武田の家は滅んだも同然。
叔母上は再嫁し、一騒動収まってからも、父は武田に、というよりは叔母上を追いやったその女に恨みを抱いているらしい。

それ以来、力ある女というものがどうにも赦せないのだろう。
私が、その女が産んだ武田光和の子と同じ頃生まれたことも、あるかもしれない。

親が子の人生を決める世の中にあって、親に疎まれし子はどうなるのか。

ましてや、どんなに強かろうと私は女。
男より強く、なんの可愛げもない女。

何故男に生まれてこなかったのだと、自問するのももはや習慣で。

いつか、誰かに必要とされることがあるなどとは、思っていないのだから。




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