Library C

□Eternal Lovers
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「家を買おうと思うんです」


…なんの脈絡もなく、彼はそんなことを言った。

これが、真面目に将来について話してる場合とか、「これからどうするの?」みたいな話の流れでそうなったらな、まだわかる。
でも、なんというか…うん、あまりにも唐突だった。

それも、家の中でまともに向き合ってなら、わからないでもないけど…場所はよく行く食堂。
しかも、食事時とあって相当騒がしい中でのことだ。


「ちょっと、なんでまた家を買う気になってるわけ?」

「なんで、というのは、話せば長いんですが…」

「構わないわ。話しなさい」


呆れ半分にあたしが言い切ると、彼は「そうですか…」と珍しく口ごもった。


要約すると、こういうこと。

ライは、妹のメアリーと2人で、下町に下宿している。
彼がアバロンへ出てきたのは、15才の時。魔術士学院を卒業して、正規の術士になってからも、ずっと。

貴族とはいえ、実家が決して裕福ではないライにとっては、本人曰く「身分相応」だそうだが、仮にも皇帝直属部隊員にまで出世した人間が住むところではない。

その頃には、さすがに増えすぎた蔵書の置き場に困っていたようで、直属部隊員用に城内に宛がわれた部屋は、ほぼライの書斎と化していた。
それでも置ききれなかった本(自分で買ったわけではなく、多くは引退した先輩術士から譲られたものらしい)は、元々手狭な術士班の城内待機室に山積みにされており、「いい加減に本棚付きの家に引っ越せ。お前高給取りだろ」と同僚に言われる有様だった。

だが、曲がりなりにも貴族の御曹司で、宮廷魔術士として10年以上のキャリアを積み、皇帝直属部隊員にまでなった男が安いアパートに住んでいるのにも、それなりに事情がある。

ライは次男で、上に兄と姉、末っ子のメアリーとの間に3人もの妹がいる。
仮にも皇太子を出した家であるがゆえに、アストレア家と婚姻関係を結びたい貴族は多く、お姉さんも妹たちも、それなりに良い家へと嫁いだ。

となると、嫁に出す側の負担も大きい。
「満足な持参金と嫁入り道具くらい、持たせてやりたい」という思いから、ライはずっと実家に仕送りをしていたのだ。

実のところ、どれだけの額を送っていたのかはしらないけど…多分、手取りの半分は送金していたに違いない。
生活費はメアリーと折半していたようでも、この男が自分のために大金を使っているところを見たことがない。


「…ていうか、あなた根本的に欲がないわよね。たとえ仕送りしてなくても、今以上の生活してるところが想像つかないんだけど」

「実際、兄から『もうリジーも結婚したから、これからはお前もメアリーも自分の為に金を使え』と言われても、使い道が思いつかなかったんですよ。
自分が貧乏性なのを、妹たちのせいにするつもりは毛頭ありませんから」

一応自覚はあるようで、彼はそう、安いワイン片手に苦笑した。



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