Library B

□くだけてものを、思ふころ
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「表が騒がしいと思ったら、やはり祀でしたか」

第三者の声に、その場の人間が一斉にそちらを見る。

「兄上!」
「隆元さま!」

私と祀さまの声が重なる。
そこにいらしたのは、他でもない毛利家の嫡男、祀さまの兄上である毛利隆元さま。

「これは朱雀殿。わざわざありがとうございます…。なんの騒ぎですか?おおよそ、検討はついていますが…」

喪服姿で、困ったような顔をされる隆元さま。
お互いに牽制しあっている祀さまと宍戸家の使用人たちよりは、私の方が中立的な話ができるだろうと、これまでに聞いた話をまとめてお伝えした。

「やはり、そうですか…。いずれにせよ、母上の御前です。静寂にして下さい。祀も、隆家殿はなんとおっしゃっていましたか?」

「どうぞ行ってらっしゃい、自分もすぐに行くからと。それなのに、この者たちが、意地でもわたくしを行かせまいとするのです」

「ですから、せめて裏口からお入り下さいと申し上げたまでです。お腹の子になにかあったら、どうされるのですか!」

この調子。隆元さまが、私と香を見て「巻き込んでしまって、すみません」とおっしゃった。

「すみませんが、妹はお腹の子共々、毛利家が責任を持って預かります。今日の所は、お引き取り願えませんか?」

毛利の次期家長にそう言われて、言い返せる人間がいるとも思えない。
彼女たちは、仕方なく頭を下げた。

「母上の元へ、参りましょう。どうぞ、朱雀殿もご一緒に」

「わたしくが…宜しいのでしょうか?」

身内でもないのに。
それでも、隆元さまは「他でもない、貴女ですから」とおっしゃった。

「母上は、貴女をもう一人の娘のように思われていました。どうか、中へ…」

「そうよ朱雀殿。共に行きましょう」

ご兄妹がそうおっしゃって下さった。
断る理由など、あるはずがない。

私は、深々と頭を下げて、お2人に続いた。



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