Library B
□くだけてものを、思ふころ
4ページ/8ページ
「表が騒がしいと思ったら、やはり祀でしたか」
第三者の声に、その場の人間が一斉にそちらを見る。
「兄上!」
「隆元さま!」
私と祀さまの声が重なる。
そこにいらしたのは、他でもない毛利家の嫡男、祀さまの兄上である毛利隆元さま。
「これは朱雀殿。わざわざありがとうございます…。なんの騒ぎですか?おおよそ、検討はついていますが…」
喪服姿で、困ったような顔をされる隆元さま。
お互いに牽制しあっている祀さまと宍戸家の使用人たちよりは、私の方が中立的な話ができるだろうと、これまでに聞いた話をまとめてお伝えした。
「やはり、そうですか…。いずれにせよ、母上の御前です。静寂にして下さい。祀も、隆家殿はなんとおっしゃっていましたか?」
「どうぞ行ってらっしゃい、自分もすぐに行くからと。それなのに、この者たちが、意地でもわたくしを行かせまいとするのです」
「ですから、せめて裏口からお入り下さいと申し上げたまでです。お腹の子になにかあったら、どうされるのですか!」
この調子。隆元さまが、私と香を見て「巻き込んでしまって、すみません」とおっしゃった。
「すみませんが、妹はお腹の子共々、毛利家が責任を持って預かります。今日の所は、お引き取り願えませんか?」
毛利の次期家長にそう言われて、言い返せる人間がいるとも思えない。
彼女たちは、仕方なく頭を下げた。
「母上の元へ、参りましょう。どうぞ、朱雀殿もご一緒に」
「わたしくが…宜しいのでしょうか?」
身内でもないのに。
それでも、隆元さまは「他でもない、貴女ですから」とおっしゃった。
「母上は、貴女をもう一人の娘のように思われていました。どうか、中へ…」
「そうよ朱雀殿。共に行きましょう」
ご兄妹がそうおっしゃって下さった。
断る理由など、あるはずがない。
私は、深々と頭を下げて、お2人に続いた。