頂き物絵&小説

□【頂き物】ひぐらし×コナン
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 いつも君を助けたかった。
 いつも君を助けられなかった。
 押し寄せる後悔の念は、幾度も幾度も経験した痛みだった。
 だから、今度こそ。


【事件file:雛見沢連続怪死事件〜罪曝し編〜】


 ミミミミミミミ……。
 耳障りな程けたたましく鳴く蝉の声が、一層暑さを引き立てる。
 日に数本、ここ最近は1本走るか走らないかだというバスの車内は、今日に限っては異様に混んでいた。
 尤も、混んでいると言っても立つ客がいる訳ではなく、田舎道を走るバスにしては、である。バスに揺られる面々はその多くが見知った顔で、自分達がいなければそれこそ片手で事足りる。
 ぐるりと車内を見回して、旧型のクーラーが付いているのかいないのかさっぱり判らない蒸された温度に、コナンははぁと大きく息を吐いた。
 今年の夏は、まだ6月だというのにじめじめとした熱風が吹く茹だる様な暑さが続いていた。窓の外から見える木々と、見た目ばかりはコナンと同い年の少年少女達だけが元気いっぱいに輝いている。
「悪いわねー、蘭。ホントはあたしんちの車で送れれば良かったんだけど」
 如何せん、この辺りはまだ封鎖が解かれて間もないから地元でない車には検問が入る。
 毛利蘭の無二の親友と自称する鈴木園子。彼女(というより鈴木家)の力を以ってしても、なかなか厳しいらしかった。
 それも致し方ない。
 何故なら、この、鹿骨市雛見沢村は、約20年前に謎のガス災害に見舞われ村が死滅して以来、つい数年前までずっと立入禁止指定区域として封鎖されていたのだから。
「仕方ないよ。先方からもバスで近くまで来る様に言われてるんでしょ?途中から向こうも車で迎えに来てくれるって言うし」
「そうなのよねー。興宮の人達の反対運動激しいらしくて。何でもエラーイ地主が絡んでて派手に動くとヤバいんだって」
 興宮とは、バスの出発地点である田舎にしてはそこそこ大きい、雛見沢の隣町だ。
 大袈裟に園子が嘆息すると、元太が「溜息吐くと幸せが逃げるんだぞー!」っと声を上げた。子供は元気なものである。
「おうおう、工藤。なぁに一人斜に構えとんねん。子供らしゅう愛想よくしときぃや。コ・ナ・ン・君?」
にたにたと嫌な笑みで、浅黒い肌の高校生、服部平次はコナンの首をホールドした。「るせー」とジト目で言いながら、それを言うなら灰原だ、と阿笠博士の隣で黙々分厚い本の頁をめくる少女をちらりと見遣った。すると一瞬目が合って、ふふんと鼻で笑われる。判っちゃいるがなかなかいい性格している。
「しっかし、あっついなぁー。平次、暑苦しいから喋らんといてや」
「何やとォ、和葉。勝手について来て何やねん、その態度は?」
「ふーんだ。あたしは蘭ちゃんと園子ちゃんに誘われたんやもん」
「かぁああ!ムカつくやっちゃなぁあ!」
 そもそも何故コナン達が雛見沢村に来たかといえば、鈴木財閥の懇意にしている取引先の会長が雛見沢村を丸々買収したところに由来する。
 会長の名は末次利夫。何故この時期に、こんな田舎の辺境地を買い取ったかは鈴木社長も首を捻っていたが、どうやら今回のツアーが目的らしい。
 ツアーと一言で言っても、コナン達が参加している今回は正規のものではない。
 参加者は末次会長が呼んだ彼の知人と有名探偵達だけである。内容は雛見沢村を舞台にしたミステリーツアー。要は内輪公開、宣伝効果に毛利小五郎や服部平次などの名前が欲しかったのだ。園子は多忙な鈴木社長の代理である。
 しかし、それにしてはコナン達少年探偵団を除く面々も会長の知人とは思えないような庶民的なニオイのする者達ばかりにコナンの目には映ったが。
(四十過ぎの男は探偵に見えなくもないな。あの女の人は……着てる服からすると末次会長の知り合いか?でも向こうの夫婦は……)
 ぱちり。
 乗客を確認していたコナンは、妻の方と目が合ってしまった。
 やべ、と一瞬焦るが、妻はきょとりと大きな瞳を瞬かせて、口許を緩ませた。
「こんにちは」
「え、あ……こんにちは」
 ぺこりとコナンがお辞儀をすると、夫が妻にどうした?と問い掛ける。
「暁くん、あのこ」
「ああ」
 夫の方もにこりと笑顔を作る。人当たりの良さそうな夫婦だ。妻の方は幼さが残り、夫とはいくらか年が離れているように見えるが、傍目からでもとても仲良くみえる。
 前方の席で隣同士に座りながら喧嘩してる蘭の両親に見習わせてやりたい。
 

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