LOMの別主小説

□【頂き物】彼、恋愛中
1ページ/4ページ


暗い洞窟を確信もなくずんずんと進むその背中に、無駄だと分かっていながら俺は声を掛ける。

「瑠璃、ちょっと速すぎるって」
「煩い!」

俺の制止を他所に、彼はやはり歩む足を止めない。俺は小走りで追うのだけれど、彼は果たして周囲への注意を怠って居ないだろうか。と、思った瞬間、岩影から魔物が飛び出してきた。

「危ない!」
「っ!」

咄嗟に繰り出した俺の槍が、上手く急所を捉えて一撃に沈める。
…だから言ったのに。

「……悪い。助かった」
「焦りすぎだって。もうちょっと落ち着きなよ」
「………」

彼にとってどれだけ大切な「姫」なのかは分からないけれど、こんなにも冷静さを失わせるほどなんて。……なんだか、少し嫉妬。
嫉妬ついでに八つ当たりするかのように、俺は彼の手を無理矢理取った。

「!何を…」
「そっちの道じゃ無いよ。さっき行ったから。こっちだよ、たぶん」
「そ、そうか…」

素直なところもあるのか、俺の言葉についてくる。忘れているのか、手を振り払う事もなく。……可愛いところもあるじゃないか。
魔物の瘴気に満ちた暗い洞窟を、不似合いに手を繋ぎながら歩く。こんなんじゃいつ魔物が襲って来てもすぐに対処出来るわけ無いけど、彼はそんなことに気が付いてない。落ち着きなく前のみをまっすぐ見据えている。……やれやれ、世話の焼ける。
 

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ