頂き物絵&小説

□【頂き物】玄冬夜
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源博雅は困っていた。
女人とふたりきりで過ごす事自体に、この男は不慣れなのだ。
頼みの晴明は少し前に出掛け、まだ戻らない。
心細い。
(晴明。いったい、どこに行ったのだ…)
「――博雅さま」
不意に、宵姫に呼びかけられた博雅は慌てた。
「は…、はい」
「よろしければ、笛をお聴かせくださいませんか?」
博雅の動揺を知ってか知らずか、宵姫は穏やかな笑みを浮かべる。
「ああ、はい、喜んで」
しどろもどろに頷いた博雅は懐から葉双を取り出した。
目を閉じ、唇にあてる。
澄んだ音色が、夜気に解けていった。



頬に風を受け、博雅は目を開く。
(――ああ…)
白く閉ざされた庭に、月光が蒼く零れていた。
さきほどの風が、雲を散らしたのだろう。
(…何と、美しいのだろうか…)
風花を伴い、静かに風が吹き抜ける。
二人の間に置かれた火鉢の炭も、博雅の笛に聴き入ったかのように、音をたてるのを止めた。



やがて、ゆっくりと博雅は唇から笛を離した。
笛の音がまだ、名残惜しげにたゆたっていた。
両頬をつたう涙もそのままに、博雅は宵姫に庭を示す。
「宵姫様。ご覧下さい。この――や、これは失礼を…」
「大丈夫です、博雅さま。私にも見えておりまする。博雅さまの笛の音が、見せて下さいました」
見れば、宵姫の頬も濡れていた。
「力ある言の葉は人を動かすもの。博雅さまの笛も同じにございまする。――ほんに、良い笛でございました。…またいつか、お聴かせ願えましょうか?」
「はい。もちろんです」
博雅は力強く頷いた。




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