頂き物絵&小説
□【頂き物】ひぐらし×コナン
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「胸糞悪ィな……」
それは誰もが抱いた感想。
古手梨花という少女の無惨な殺され方もだが、犯人が一切浮かび上がらぬ奇妙な『オヤシロ様の祟り』そのものにも。
快斗が皆の気持ちを代弁したのを機に、深い溜息が零れた。主は平次だ。
「夏美さん、藤堂さんと同い年だったんだ……。随分若く見えるけど」
「心労が身体の成長を一時的に止めてしまったんじゃろう。……可哀相にのう」
とは言え、暁の支えで塞ぎ込んだ日々から脱却した彼女は強いと言えるだろう。
友人を、親戚を一夜にして奪われたこの雛見沢を再び訪れた時、一体彼女はどんな気持ちだったのだろうか。
「しかし薄情なようだが……彼女や藤堂さんに動機があるのははっきりしたね」
「せやな……。考えたないねんけど、一番動機がはっきりしとんのはあの二人や」
だが、気にかかるのはあの喉に遺された掻き疵だ。
あれではまるで、自らバリバリと血が出るまで掻き毟った様な痕である。
どんなにもがいたって、紐から5cm近く離れた場所に爪を立てるなんて奇怪(おか)し過ぎる。
「それに気になるのはまだあるぜ?過去の事件は五年目を除いて全て解決済みだってやつ」
「……確かに。偶然にしては出来過ぎてるがな。それに関しては気にし過ぎだろう」
快斗の疑問をばっさりと切り捨て、小五郎は煙草の紫煙を燻らせた。
そんなことより、何故か20年もの歳月を経てまた綿流しの時期に起きたこの殺人事件が重要らしい。
コナンや服部、白馬は果たして本当に切り離して考えるべきか。快斗の指摘通り、もしかしてその不可解な毎年の殺人と失踪も関係あるのではないか、眉を寄せたが、如何せん何十年前の話であるから小五郎の主張を論破出来ない。
「お前達ガキンチョはもうこの件から手を引け。勘でしかないが今回ばかりはヤマがでかい気がする。俺と赤坂さんで何とかするから首を突っ込むな」
「あなた……」
「お前もだ、英里。明日の朝、子供達を連れて興宮に行くんだ」
有無を言わさぬ口調に、英里は渋々ではあるが、自分達の愛娘の安全を第一に考えて頷いた。
それが一番かもしれない。
コナン自身はまだまだ此処にいる気だが、蘭や哀を含めた少年探偵団には危険過ぎる。
仕方ないとしか言い様がなかった。
ソファに身を沈めてそんな風に考えといると、応接間の扉が控え目にコンコンと鳴らされた。先に戻った赤坂達か、それとも野村や阪崎だろうか。
白馬がガチャリとノブを回す。
「どうも」
思った以上に低い位置からの声に、一瞬白馬は虚を突かれるが直ぐにいつもの甘い笑みを浮かべて道を開いた。
灰原哀が、やってきたのだ。
「江戸川君、ちょっと」
ソファから飛び降りたコナンは足早に哀に近付くと、応接間から少し距離を置く為に廊下の一番端まで歩いて行く。
此処なら盗み聴きされる心配はなく、尚且つ見通しも利く。
「どうしたんだ?」
コナンが切り出すと、哀はこくりと頷いて、歩美の様子が変だ、と口重たく告げた。
「足音が一つ余分に聞こえるって訴えるの。みんなそんな足音は聞こえなかったし、始めは気の所為だろうって言ってたんだけど……」
「けど、なんだ?」
「調べたのよ。過去の事件と雛見沢について。そしたら、雛見沢出身者の間で奇妙な一致があったの」
コナンが眉を顰めると、一層、哀は声のトーンを落として続きを口にした。
「20年前にガス災害が起きて以来、雛見沢出身者の多くが、酷く暴力的になって最期は変死する事件が相次いで起きたの。そして、その一部が「足音が一つ余計に聞こえる」って暴動を起こす前に訴えていたらしいわ」
「……何だって?」
「『雛見沢症候群』。世間では、そう呼ばれていたって。……もしかしたら吉田さん」
ぺたぺた、ぺたぺた。
聞こえる筈のない足音。
二人しかいない廊下。
誰かが、「ごめんなさい」と嘆いている声が頭の中で響いた気がした。