頂き物絵&小説

□【頂き物】ひぐらし×コナン
5ページ/31ページ

【2】


 末次会長が殺害された。
 死体は紐状の何かで絞殺。抵抗痕にしては不自然過ぎる首の掻き疵が、事の異常性を物語っていた。
「……末次会長が、どうして!!」
 スーツ姿の女性が顔を伏せる。
 野村と名乗った女性は、会長の知り合いにしては少々若めな風貌だが、雰囲気は確かに大物と知り合いであるような落ち着いた物腰が印象的だった。
 泣き伏せた野村の横では、東京から来たカメラマンの阪崎という男が不躾にガシャガシャとシャッターを切っている。
 阪崎の行動を不快そうに浪花の探偵とその幼なじみは見るが、手を出しそうな勢いに赤坂は首を横に振った。
「野村さん、貴女は末次会長とはどのようなご関係で?」
「……私は、末次会長には昔からお世話になっておりました。会長は私がまだ若かった頃、秘書をやっている私の後ろ盾となって下さったんです。そのお陰で今や日本有数の企業に勤めることも出来るようになりましたし、今の私があるんです」
 小五郎の質問に涙を拭いながら答える野村。ふむ、と小五郎は納得したが、コナンの顔は険しかった。
 何と言うか、泣いているのに隙を感じさせない。
 本当に悲しんでいるにしては、完璧過ぎて違和感があるのだ。
 それは周囲の者からしたら理解出来ないと思われるかもしれないが、数々の難事件の場数を踏んだ名探偵・工藤新一……則ちコナンには、その経験から野村が奇妙に映った。
「では阪崎さん、貴方は?」
「俺は純粋にこのミステリーツアーに興味があっただけさ!『雛見沢連続怪死事件の真実を名探偵が挑む!』三流週刊誌にしてはいい記事だろ?」
 経緯としては、話題性を大事にしていた末次会長に無理矢理頼み込み、世間でブームを起こすと約束しての参加だそうだ。
 『雛見沢連続怪死事件』。
 約20年も前に、片田舎であるこの地で起きた事件を最もよく覚えていたのは、仲間内では阿笠博士であった。
 毎年、この雛見沢で行われていた六月の『綿流しの祭』の前後に、決まって一人が消え、一人が死ぬ。
 一、二年なら偶然。三年目は疑問で済むが、それは四年、五年と続いた。
 そして最後の五年目に、ガスによる大災害が起きた。
 今ではそのガスが漏れ出たといわれる沼は埋め立てられている(実際にコナン達も見に行った)が、五年目の災害を機に事件の真相は闇の中に消えてしまった。
 当時の週刊誌やテレビの取材に因れば、この地に古くから伝わる伝説と土地神『オヤシロ様』が深く関わっているようで、通称・オヤシロ様の祟りなどとも呼ばれていたらしい。
 事件の概要や伝説、『オヤシロ様』の存在を阿笠から聞いていたコナン達は、末次会長の金儲け手段に事件を利用した悪趣味や阪崎の態度に吐き気を覚えたが、成る程、雛見沢を利用し儲けようとする末次会長、ゴシップにより名を挙げようとする阪崎、二人の利害は見事に一致している。
 しかも、二人の関係はそこまで深い訳でもなく、たまたま事件とこの企画に目を付けたカメラマンが阪崎で、たまたま末次会長が利用しただけ。
 特に動機は見つからない。
「では、藤堂夫妻。あなたがたは別に招かれた訳ではないですよね?一体何故?」
 次に質問は、暁と夏美に向いた。
 この場で一番浮いているのは明らかにこの二人である。小五郎と英里の人を穿った目付きに夏美はぴくりと肩を揺らした。
 それを過敏に感じ取った英里は慌てて柔和な笑顔を作る。
「別に責めている訳じゃないわ。みんなに聞いていることだし、状況把握の為にも必要なことなの。今みんなの前で話せないなら後ででも構わないわよ」
 暁の視線が腕にしがみつく夏美へ向く。
 まるで幼子みたいに怯えを見せる夏美を心配そうに見つめるが、夏美はやがて小さく「赤坂さん……」と呼んだ。
「……いいのかい?」
 赤坂の確認に、夏美はこくりと頷いた。暁もお願いしますと赤坂に頭を下げる。
「では、彼等二人については私から話そう」
 厳かな顔付きで赤坂は言うと、その前に、と自己紹介を始めた。
「私の名前は赤坂徹。警視庁公安部所属の刑事です。コナン君や黒羽君達には話したけれど、この雛見沢に来るのは初めてじゃない」
「公安……!?」
 鬼ヶ淵沼の跡地まで案内してくれた赤坂がまさか公安の人間だとは思わず、服部や白馬ばかりでなくコナンもこれには目を見開いた。赤坂は気にせず続ける。
「私が此処に初めて来たのはもう20年以上前……所謂、オヤシロ様の祟りと言われる最初の事件が起きる一年前です」
 そこであった当時の事件とその経緯を簡単に説明した赤坂は、一度暁と夏美を見て、短く沈黙した。
「…………。……私は、五年目の祟りの時もこの地を訪れました。理由はある少女に会う為です。ですが……」
「その少女も?」
「ええ。亡くなりました。私が彼女に会った綿流しの晩には、仲間達と楽しく過ごしていたのに。しかし、彼女はガス災害で亡くなったのではありません」
「どういう、ことですか?」
 

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ