頂き物絵&小説

□【頂き物】ひぐらし×コナン
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「君も参加するの?」
「うん、ボク楽しみにしてたんだ」
「……名前は?」
「江戸川コナン。おじさん達は?」
「俺が藤堂暁。こっちは妻の夏美だよ」
「藤堂さんと夏美さんもミステリーツアーに呼ばれたの?」
「……呼ばれたわけじゃ、ないかな」
 暁は何かを隠した苦笑を浮かべると、夏美の手に自分の手を重ねた。
「…………」
 コナンは二人の様子に怪訝に思ったが、特別訊きはしなかった。
 すると、四十過ぎの男が夏美に話しかける。
「やはり君達は戻った方が……」
「いいえ、赤坂さん。二人で決めたことです。……私は、この雛見沢を二度と失くしたくない」
 ふるりと頭を振った夏美は、赤坂と呼んだ男を真っ直ぐ見つめた。
 一連のやりとりを見ていた平次が、コナンにこそりと耳打ちする。
「なんや、色々と複雑そやないか」
「ああ……」




「んな!?」
「白馬、探!!?」
「やぁ、コナン君に服部君。久し振り」
 バスから迎えの車に乗り換え、走ること早10分。
 村の中心部からは少しばかり外れたところに、周りと一切馴染まぬ新しいログハウスに一行は辿り着いた。
 暑さでだらりとした身体を車から降ろすと、優雅な仕種で出迎えたのは、暑さなど知らぬ涼しい表情のセレブ探偵だった。
 白馬探。
 警視庁長官を父に持つ、イギリスで活躍していた帰国子女の探偵である。
 しかし驚いたのは彼がいただけが理由ではない。
 その隣に、一瞬蘭や園子が見間違う程、『工藤新一』に似た少年がいたからだ。
「ほら、黒羽君も可愛らしいお嬢さん達に挨拶を」
「ん、ああ。俺は黒羽快斗。よろしく!」
「お、おう……」
 あまりの明るさに呆気に取られる服部、蘭も戸惑いを見せていた。園子が「旦那がいない間に浮気かぁ〜?」などと茶化しているのを耳聡く拾ったコナンは眉を顰めた。
「でも、何で……」
「僕の父が末次会長と仲が良いから、ツアーに誘われたんだ。黒羽君はまぁ、付き添いと思ってくれて構わないよ」
「おいおい、誰が好き好んで男に付き添うっつーんだよ」
 ジト目でツッコミを入れる快斗を白馬は軽くかわして、白馬はコナン達を中に誘導した。
 コナンは終始快斗に気を張っていたが、特におかしなところはない普通の少年だ。
 むしろ、おかしいのは―――。
「…………」
 妙な緊張感。
 空気の重たさ。
 バスの中の仲睦まじく話していた二人が嘘みたいに、藤堂夫妻は黙りこくっていた。彼等ばかりでない。夫妻と顔見知りらしい赤坂もである。
「夏美さん、大丈夫?」
 じっとコナンが見上げると、一瞬遅れて気付いたのか、夏美は歯切れ悪く返事をした。
「夏美」
「大丈夫、大丈夫だよ……暁くん…………。だって、オヤシロ様なんていないもん。足音だって、しない、しないんだ」
「夏美、落ち着け」
「オヤシロ様なんていない、オヤシロ様なんて、違う……でも」
「夏美!」
 ビクリ!
 ぶつぶつと何か呟いていた夏美の名を、暁が叫び、肩が大きく弾んだ。
 しん……と騒がしかった周りも静まる。コナンには夏美が何を言っているのかよく聞きとれなかったが、暁には聞こえていたらしい。
 夏美の肩をそっと寄せると、暁は「大丈夫だ」と小さく囁いて、夏美を落ち着けた。
「……具合が悪いなら早く休む場所へ行った方が良さそうね」
「いえ、夏美ならもう大丈夫です。お気遣い有難うございます」
 英里の言葉に暁は礼儀正しく返す。
 暁に手を握られて、暫し沈黙していた夏美が、赤坂に向かってぽそりと言った。
「赤坂さん、魅音ちゃん達は……見つかりますか?」
「………………必ず、見つけよう」
 ミミミミミミミ…………。
 誰もが違和感を感じながら、何も訊かない。否、訊けない。
 セミ達だけが、ただただ五月蝿く声を上げていた。
 そう。その時、コナンは知らなかったのだ。
 昭和54年から昭和58年の間。
 ただ6月という月にだけ訪れた血生臭い惨劇とその結末を。
 そして予想だにしなかった。
 惨劇の裏に秘められた真実の悲劇を。






 

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