Silver

□愛する貴方
1ページ/9ページ


後何分。後何秒。何時になれば、あの人は帰ってくるだろう。
乙女の様で、気持ち悪いとは思う。でも、それ程に好きなのだから仕方がない。
髪留めのゴムを外す。長い髪は邪魔なだけなのに切れないのは、あの人が「可愛い」と褒めてくれたから。
本当に、女々しい理由だ。

――ガチャリ…――

玄関の扉を開く音が聞こえた。その瞬間、急いで廊下を走り出す。
「ただいま、トシ」
「…おかえり」
その笑顔に、自ら口付けた。
「今日はやけに積極的だな?」
「別に?」
挑戦的な笑みを見せ、風呂沸いてるから、とだけ言って鞄を預かった。
「んー…じゃ、先に入るかな」
「そうしろよ。疲れてんだろ?」
本当は、早く触れて欲しい。けれど、仕事で疲れている近藤さんに無理を言う訳にはいかない。
だから、せめて寝る前までは我慢をするつもりだ。
せめて抱き締めて欲しいと、一人呟いた。

バスタオルと着替えを持って風呂場に行けば、シャワーの水音が聞こえてきた。
「近藤さん」
「んー?」
その返事を確認し、シャワールームの入り口付近にバスタオルを置く。
「タオル、ここに置いとくから」
「……」



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ