【小説】

□ツェリザカ
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 生い茂る針葉樹林。パワフルな10輪駆動の装甲車両が木々をなぎ倒し、土くれにコケを撒き散らしながら走り抜ける。
 武装した一個小隊が作戦図を頭の中で反芻して確認する。
 外の定点カメラが捕らえた画像を映しているメインディスプレイに、辺境侯の居城が確認できる。
「で、神父さんよ。あんたは何のために来たんだ?」
 男が提督椅子に座った人間を振り返る。
 神父。確かに、国教の神父の格好をしている。
 だがしかし。神父というにはあまりにも異形だ。
 なぜなら、黒く長い髪に、豊満な胸。だれも見惚れて当たり前の顔。誰が見ても性別は女だ。
 神父とは即ち男がなる職だ。
「いや、なに。私の事はない者と考えてくれたまえ」
 そう言いつつ神父(?)は手元の週刊誌から目を上げなかった。
 男は視線を戻しディスプレイを見た。この神父を見ていると、つい職を忘れて欲望に奔りたくなる。神父からは最近はまるで遠のいていた、女の色香が漂っているのだ。
 これでも戦争以外の欲を捨てた、僧侶だ。
「目標到着、10秒前。カウントダウン、8…」
 はしごで待機していた兵士が、天井のクーポラを空けて上半身を晒し、LAMで城の正面を打ち抜いた。
 LAM使いは爆発の手前で車内に戻り、発射筒と光学機器をすばやく分解して次のLAMに付け替えた。
 吹き飛んだ城門から巨大な装甲車をねじ込み、運転席下の突入用出口から武装した小隊が飛び出した。
 フラッシュライトを装備したプルバップ式のサブマシンガンを構え、ホールを照らす。
 まだ時刻は1330時。昼食の片付けを終える時間だ。だから、
「ようこそ。我がイカレた世界へ。わたくしは領主として、諸君ら来賓を歓迎しよう」
 だから、城主が目覚めているはずがなかったのだ。
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