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【Private Lessons】 3章目から、途中抜粋

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ドア越しにノックの音が響いた。

返事をして視線を上げる。
開いたドアから入ってきた相手を見て、一瞬言葉に詰まり、大きく目を見開いて、言葉を失った。

まさか!と頭を振る。

(……ハリー・ポッター?)


卒業してから今まで、全く忘れ去っていた相手だった。
しかし顔を見ただけで、すぐに学生時代の険悪な記憶が蘇ってくる。

ドラコは高圧的な覆持ちで相手を睨んだ。

しかし相手はドラコのそんな態度を平然と受け流して、堂々とした仕草で前に進んでくる。


「やあ、マルフォイ」


呼びかけてくる声は低く、耳障りのいい落ち着いたトーンだった。


裾が長い白衣を身に付け、掛けているメガネは銀の細い縁取りのシャープな形に変わり、体つきは適度に胸板が厚くなっていた。

しかも、いいヘアリストでも見つけたのか、髪型も癖を生かした無造作な形にカットされていて、全体的にすっきりとスタイリッシュに整えられている。



目の前に立つハリーは、学生の頃の垢抜けないイメージから、完全に脱却していた。

驚き固まったままのドラコを前に、手に持っていたカルテをめくり確認をすると、おもむろにハリーは相手の右手を何も言わずに掴んで持ち上げた。


ドラコは驚き、咄嗟にそれを振り払う。

「何をするんだ!」

つい長年の癖で、きつい口調で相手を睨みつけた。



「何って、君の傷の具合を確かめようとしただけだ……」

呆れたようにドラコを見下ろし、肩をすくめる。



「──君が主治医のマークが言っていた、腕がいいリハビリ専門の癒者なのか?」

「腕がいいかは、分からないけれども、回復を助けるプログラムを専門にしているのは事実だね」

「嘘だ」

考えるより先に否定が口をついて出てしまう。

ハリーは表情を変えることなく、それをやり過ごした。



「嘘じゃない。ここに癒者のライセンスをちゃんと持っているし」

胸元のポケットから透明なケースに入ったカードを差し出す。


ドラコはそれを受け取り、しげしげと確認した。

確かにそこには、専門学科の習得と、リハビリテーション課程を修了したことが明記されている。



「5年も前から、こういうことをしているのか?」

カードを返しながら尋ねた。


「卒業後、すぐに専門の大学に入って習得したんだ」

「大学!勉強嫌いの君が行ったのか?信じられない!」

「まあ……、信じるも信じないも、君の勝手だ。ただ、そこに行かなきゃ、学士免許が取れなかったから、必要に駆られて行ったまでだ」

「嘘だろ……」


まだ信じられずにいるドラコに、ハリーは平たんな声で言葉を続けた。



「もし、僕が担当になるのが嫌なら、断ってくれてもいい。マークに別の癒者を紹介してもらうように言ったら、すぐに新しいヒーラーを紹介してくれるだろう」

それだけ言うと、踵を返して出て行こうとする。


慌ててドラコは相手を引き留めた。

「まってくれ!」

ドラコは思わず出てしまった言葉に、自分自身が戸惑う。



「その……、あの──」

続けようとしても、何と切り出していいのか分からない。

別の癒者でもよかったけれども、担当医が特に腕がいいと推薦した相手だ。

しかし、相手はあのハリー・ポッターだった。



言いあぐねている相手に、ハリーはため息をつく。

「そうやって要領を得ないのが、僕としては一番困るんだ。次回会ったときに返事をしてくれと言うのは、残念ながら無理だ。今ここで決めてくれ。僕には時間がない」

「──時間がない?」

相手はさも当然だと頷いた。

「僕は君だけでなく、いろいろな患者とのリハビリのセッションを、時間単位で持っているんだ」

「時間単位?それはもしかして、一時間いくらの料金を取って、君を雇うということなのか?」

「平たく言うとそうだね。僕は別に聖マンゴ病院の癒者じゃない。個人で独立したオフィスを持っていて、要請があると指定された場所に出向いて、回復の処置の手助けをしている。──だから、悠長にひとりだけの為に、長く時間をかけることは出来ない。嫌なら、すぐに断ってくれ」


相手の言葉には昔の怨恨の影など微塵もなかった。

ただビジネスライクに、用件を伝えているだけだ。


冷たい金属のフレームが光を反射して、じっと自分を見据えた。

ドラコは相手からの威圧感に咳払いをして、乾いた喉を整えた。

「あ……、ひとつ質問をしてもいいか、ポッター?」

「どうぞ」

相手は落ち着いて、大人の応対をした。



「どうして君は僕からの依頼を受けたんだ?」

「別に君だから、受けるとか、受けないとかは関係ない。マークから渡されたカルテを見て、この症状だったら回復の見込みがありそうだったから、依頼を受けたまでだ」

「回復の見込みがあるのか?」

当然だという感じで、ハリーは縦に頷いた。


ドラコは身を乗り出して、真剣な顔で相手を見据えた。

「痺れて、指の一本も動かないんだぞ。それを君が治せるというのか?」

「努力するのは君自身だ。ただ自分はその手伝いをするだけだ」

何度か躊躇したあと、ドラコは意を決したように、今度は自分から、相手へと右手を差し出した。

ハリーは相手の意図をくみ取り、軽く頷くと、自分の前に差し出された手を握り返した。

今度はゆっくりとした仕草で、確かめるように指先で、ドラコの手の甲の傷をたどっていく。


予想外にハリーの指の動きは繊細だった──


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続きは、同人誌にて。

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