頂き物

□ありがとう
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「先生!用意しといてくれました?」

家に元気よく帰って来たと思えば開口1番にそう尋ねられた。

「帰ってきたら先ず言うことがあるだろ?」


「ただいま、先生」

「おかえり」



*ありがとう



「ほれ」

大家さんから借りてきたものをきり丸に渡した。

「わぁーありがとうございます」

「でも茣蓙(ござ)なんてどうするんだ」

「え、何って、花見の場所とりのアルバイトに決まってんでしょーが。おれ、いいところ知ってるんですよ」

目を小銭に光らせてきり丸は笑った。

「へぇ、どこにあるんだ?」

「そんなの先生でも言えるわけないでしょ?企業秘密です」

そう言って茣蓙を持ってきり丸は出ていってしまった。

いやはや、どうしたものか…

私の心とは裏腹に桜はもう咲き始めていた。





「う〜ん、」

どう切り出せばいいものか……。
何にすればいいのか。
煮詰まった私は町に出て露店を物色していた。
どれもこれもピンとこない。

「土井先生」

「わ、利吉くん!」

「一人で百面相していましたよ?」

いきなり後ろから声をかけてきたのは山田先生の息子さんの利吉くん。
流石フリーの売れっ子プロ忍者。全然気配がわからなかった…(かく言う私はもう忍者失格か?笑)

「どうせ、土井先生のことだ。きり丸のことでお悩みなんでしょう?」

「あはは、バレてしまったか」

「あなたはわかりやすすぎます。それじゃあ忍者失格ですよ?」

あ、やっぱり?

自嘲気味に笑っていると利吉くんは小さい布袋を懐から取り出した。
とても綺麗な柄の布。きっと高価なものが入っているんだろう。

「それは?女性への贈りものかい?」

「まぁ、そんなところです。もうすぐですから。ね、土井先生」

最後の含み笑いで彼の言わんとしないことがすぐにわかった。
彼はそれをきり丸にあげるつもりだ。
中が何かなのかはわからないが、きっとこの気障な男は贈り物も得意なのだろう。

「ははは、」

「いつまで経ってもそんなヌルイ関係じゃ、私がさらって行ってしまいますよ?」

笑って誤魔化す私に冗談ぽくそう言ってきた、口は笑っていたが目は本気だった。
それは困るな、なんて誤魔化しながら利吉くんと別れた。







「ねぇ、せんせ、せんせってば!」

「え、あぁ。そうだな」

「おれの話聞いてました?」

「あ、あぁ。聞いてたよ。団蔵だろ?」

「違いますよ、りーきーちーさん!」

どきっとした。
その名前を聞いた途端少し動揺してしまうようになったのは自分の不甲斐無さのせい。
利吉くんの居ない空間なのに利吉くんで全てを埋め尽くされているような気分で何だか腹が立つ。

「でね、利吉さんが「なぁ、きり丸」

「はい?」

「この間言っていた花見の穴場に私を連れて行ってくれないか?」

「え、」

「やっぱりダメか?」

きり丸は目を泳がせていた。

「いいですよ。特別に教えてあげます」

“特別”そんな言葉に微かに胸が高鳴るなんて私もまだまだ若いのかも。






「ここです」

きり丸に案内されたのは裏々山の人目につかないところ。
立派に育った桜の大木。
その周辺はきり丸が花見用に整備したんだろう、平坦になっていた。

「おーこれは確かにすごいな」

「でしょ?前にオリエンテーションのときに見つけたんです」

「まだ七分咲きってところだな」

「満開は多分来週くらいでしょうね」

二人で大木を眺めながらつぶやいた。

「きり丸、来週ここで花見をしよう」

「お、いいっすね!なんか奢ってくれるんでしょうね」

「そこを期待しないでくれ…」

自分の財布が悲しくなってきり丸の頭に手を乗せた。

「あはは、楽しみにしてます」

きり丸は私の手をどかすことなく笑っていた。







「はぁ、すっかり満開ですね」

「まさかこんなに咲くとはなぁ」

見事に満開に咲いた桜の下で私たちは茣蓙を広げて握り飯を食べていた。
広げて握り飯を食べていた。
いつもは休みの最後に炊くひなのめしだが、今日は特別な日だからと言って私が炊いた。
それと休み中にしんべヱにもらった金平糖。
あとは団子二本に、きり丸が「腹の足しにはなります」と無理矢理持ってきたイナゴの

「今度、一年は組のみんなを連れてきてやりたいな」

「そのときは場所の紹介料お願いしますね」

「ばかもん」

こつんと頭に拳骨を落とした。

なんだかそんな当たり前のやりとりが可笑しく思えてきて、二人で声を出して笑った。

桜の花びらがはらはら舞ってきり丸の頭を彩った。
そんな姿に一瞬「綺麗」と思ってしまった。そんな思考を振り切るように頭を振った。

「きり丸、花びらついてる」

保護者の顔をしてきり丸の頭の花びらを払ってやった。

「ありがとうございます」

照れたように笑うきり丸に思わず顔に熱が集まる。

「きり丸、こっちにきなさい」

「え、」

冬の寒い日はたまにきり丸を膝の上に乗せて暖をとったりもした(きり丸は湯たんぽ代くださいとうるさかった)。
でも今は春まっただ中、寒いわけもなく、寧ろあったかいくらいだ。
だから私がきり丸を膝の上に乗せるのは暖をとるためではなく、ただそうしたいから。
この方が顔を見られなくて済むから都合もいい。

軽いきり丸を膝に乗せて桜を見る。

そして懐からつつみを取り出した。

「ほれ、きり丸」

「ん?なんすか?」



「誕生日、おめでとう」



「え、」

「知らないとでも思ったか?」

「だ、だって…、」

「私はおまえの担任兼、保護者なんだぞ」

「でも、」

小さく震える体を後ろから抱き締めた。
顔は見えないが、きり丸の耳が真っ赤だった。きっと私の顔も真っ赤だ。

「あ、あ、ありがとう、ございます…」

かき消されそうな程小さい声だったけど、それでも私には十分すぎる程だ。

かさかさとつつみをあける。

「結い紐?」

「贈り物なんてほとんどしたことないから何がいいのかわからなくってな。こんなものになってしまった。ま、今のが使えなくなったときにでも使ってくれ」

何時間も悩んだ末に買ったのは白と水色と青の細い糸で編みこまれた綺麗な結い紐。

「せんせ、ありがとう」

きり丸が思いっきり抱きついてきた。
私もそれに応えるべく思いっきり抱き締めた。


「生まれてきてくれて“ありがとう”」


そんな気障なこと言えるのはきっと今日だけ。



きり丸、誕生日おめでとう。











★後日談

数日後、休み明けギリギリに結局は組全員が何故か私の家に集まるという現象がまた起きたので、そのままは組で花見をすることになった。
まぁ、それは庄左ヱ門の作戦のうちで、みんなできり丸の誕生日会をした。
そのとき利吉くんもきて、やっぱりあの綺麗なつつみをきり丸にあげていた。
中には綺麗な、また高級そうな櫛があった。

「ありがとうございます、利吉さん」

「当日に渡したかったんだけどね。きり丸が忙しそうだったから…」

そうきり丸に話している利吉くんのからは痛いくらいの矢羽のような怨念が感じられた気がした。


「今回は土井先生に譲りましたけど、次はそうはさせませんからね?」

「私だっていつまでも黙っているわけじゃないさ」


そんな大人げない大人のやりとりは子供たちの喧騒の中に消えていった。







★おわり★




蟻さんありがとうございましたv
おいしく…いや、有り難く頂きます、むしろごちそうさまです(コラ

これをあなた、土井きり度ぬるいって…!
たまらんです(*´ω`)
利吉のポジションもツボですv
あーいい。(何

あと、きり丸が土井先生に利吉さんの話をしているとことか、
地味に団蔵が出てくるとことかも萌える…!

いっぱい萌えさせて頂きました。
本当にありがとうございます!これからもよろしくお願いします★
またそちらに訪問させていただきます!

東雲でした。

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