CHOCOLATE KISS

□慎也視点【完】
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帰りがけにも待ち伏せされて、いくつかのチョコを貰った。

俺、うまく笑えたかな?多分無理、ひきつってた気がする。


街を歩くと、バレンタイン本番直前のせいか、異様な盛り上がりだ。

あちらこちらで、女の子たちの歓声に出会う事が出来る。

その姿が微笑ましくもあり、羨ましくも、妬ましくもある。


世界中で、自分だけが取り残されて、この桃色に染まった甘い雰囲気から、隔離されている気がする。



ふと、店先に並んでる中で、一種類のチョコに目が奪われる。



『これ、好きなんだぁ』
そう、トロンとした笑顔で呟く洋助さんを思い出す。

数ある菓子類の中で一番好きだと言っていた、エアーインチョコ。

小さな口に入れては、幸せそうに蕩ける姿は、それだけで俺は幸せを胸いっぱいに感じた。


それを手に取り、ふっと笑顔が溢れる。

ただそれだけで、心が暖かくなった。

案外、幸せって安上がりかもね?





あの時の幸せを思い出したくて、俺はそれを買って家路を急いだ。









俺が住んでいるマンションは、そこそこのランクだと思う。

大家さんが親の知り合いで、安く借りれたんだ。

まだ未成年の俺が住むには、贅沢だが、家賃は相場より安い。

しかし、親としては、知り合いが監理してる分安心なんだろう。
俺も学校から近いから、問題なく決めたしな。

うちはそう、金持ちな方じゃないし、学校がバイト禁止だから、かなり助かる。




マンションが見える位置まで来たとき、入り口前に小さな人影を見付ける。



―――洋助さんだ…


寒そうに、ふわふわのマフラーをしっかりと首に巻き、小さな手を被うように、大きめの手袋で防寒されてる。
赤く染まった頬を、その手で温める様に擦り付ける。

寒がりの洋助さんは、長い事待っていたのか、体を小刻みに動かしては、暖に代えようとしている。

小さな口からは、白い息が表情を隠す様に吐き出される。


俺はその姿を見て、息が苦しくなった。

心臓を鷲掴みににされたように、ドクンと大きくひとつ鳴り、その後は早鐘ように鳴り響く。

ただ、立ち尽くすしか出来なかった。


―――彼女と別れたらしいよ。
友人に嫌って程に聞かされた、洋助さんの事。

噂が現実になる…


今の俺は弱い。

離れたくないとすがってしまう。
別れたくないと泣いてしまう。

終わりを認めたくなくて、傷付けてしまうかもしれない。



呆然とただ、立ち尽くしていた俺に、洋助さんは気が付いたらしいけど、多少戸惑って、どう声をかけるべきかを考えあぐねているようだ。




近付く事も、逃げ出す事も出来ない俺たちの微妙に空いた距離を、チョコようなの甘く冷たい風が通り抜ける。




俺は洋助さんの顔を見る事が出来なかった。



続く



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